和歌と俳句

千載和歌集

藤原隆信朝臣
うたゝ寝は夢やうつゝにかよふらん覚めてもおなじしぐれをぞ聞く

前右京権大夫源頼政
山めぐる雲のしたにやなりぬらん裾野の原にしぐれ過ぐなり

源師光
しぐれゆくをちの外山の峯つゞき移りもあへず雲がくるらん

道因法師
あらし吹く比良の高嶺のねわたしにあはれしぐるる神無月かな

中納言源国信
み山べのしぐれてわたる数ごとにかごとがましき玉柏かな

源俊頼朝臣
木の葉のみ散るかと思ひししぐれには涙もたへぬものにぞありけれ

二条太皇太后宮肥後
ふりはへて人も問ひこぬ山里はしぐればかりぞ過ぎがてにする

定家
しぐれつる真屋の軒ばのほどなきにやがてさし入る月のかげかな

よみ人しらず
たまづさに涙のかゝる心地してしぐるゝそらに雁の鳴くなる

源仲頼
峯ごえに楢の葉つたひおとづれてやがて軒ばにしぐれきにけり

紀康宗
あかつきの寝覚めに過ぐるしぐれこそもらでも人の袖ぬらしけれ

藤原盛雅
散りはててのちさへ風をいとふかなもみぢを葺けるみ山べの里

中納言藤原定頼のむすめ
みやこだにさびしさまさるこがらしに峯の松風思ひこそやれ

中納言藤原定頼
朝ぼらけ宇治の川霧たえだえにあらはれわたる瀬々の網代木

藤原仲実朝臣
やかた尾のましろの鷹を引き据ゑて宇陀の鳥立ちを狩りくらしつる

隆源法師
降る雪にゆくへも見えずはし鷹の尾ぶさの鈴の音ばかりして

源俊頼朝臣
ゆふまぐれ山かたつきて立つ鳥の羽音に鷹をあはせつるかな

藤原長能
妹がりと佐保の川べを我がゆけばさ夜やふけぬる千鳥鳴くなり

皇太后宮大夫俊成
須磨の関有明の空に鳴く千鳥かたぶく月はなれもかなしや

道因法師
岩こゆるあら磯浪に立つ千鳥心ならでや浦づたふらん