和歌と俳句

島木赤彦

遠き世のコロボツクルのもちしとふ土器を掘る木の間の畑に

百日紅明かく日あたる庭のうへの空ゆく雲はいたく疾しも

湖の水いく日残れる田の中に倒れし稲を人刈りてをり

落葉松の色づくおそし浅間山すでに真白く雪降る見れば

夕晴れの空に風あれや著るく浅間の山の烟はくだる

窓の外に白き八つ手の花咲きてこころ寂しき冬は来にけり

一かぶの八つ手の花の咲き出でしわが庭の木にのこる葉もなし

物を乾すわが庭の木に朝なあさな四十雀来る冬となりけり

有明の月明らけし浅間山谿に烟の沈みたる見ゆ

護国寺の木群をふかみ日暮るれば木兎啼く聞ゆこの街の中へ

ゆくものは止まることなし護国寺の冬木の森に日は間なく照るも

かぎろひの夕べの庭に出でて見つかへることなき命おもひて

佛壇に蝋燭ともすみじか日の真昼の障子明るくなれり

おのが子の戒名もちて雪ふかき信濃の山の寺に来にけり

のぼり行く坂のなかばより山門の雪の屋根見ゆ星空の下に

善光寺山内さむし雪掃きて鳩あそびゐる長き鋪石道

雪あれの風にかじけたる手を入るる懐のなかに木の位牌あり

ただ一つ小さき火鉢置かれたり手のひらあぶれば手のうらさむし

春の雪おほくたまれり旅立たむ心しづまり炉にあたり居り

頂より烟をおろす浅間嶺の焼石原は青みたるかも

空はれてさむき光さす胡桃の木花長くして葉はまだ伸びぬ

柿の木の若葉のうへに紅き月のぼりてさむき夕となれり

この家に帰り来らむと思ひけり胡桃の花を庭に掃きつつ

夏草は窓にとどけり籠りゐる一人ごころに堪ふるこのごろ

雲くだる岩山あひの粟畑に粟の穂むしる人ひとり居り