これの世に縁はなしと思ふ子の頻りにかなしみ佛のあかり
日出づれば即ち暑し露もてる梧桐の花花粉をおとす
月の夜の曇り蒸し暑し群雀ぽぷら高樹に夜すがら騒ぐ
椋鳥に逐はれし雀あつまりて夜すがら啼けり町なかの森に
火口原焼石原の落葉松のおそき芽ぶきに嵐は吹くも
たえまなく嵐はあたる岩かどにをりをり上る赭土の埃
谿川に石うつりする鶺鴒の動きの曇るこの真昼かも
せきれいは尾を振るゆゑに曇りふかき川原の石に見えて啼き居り
霧の雨風に吹かるる川ばたの小豆の花盛なり
汽車とまる柵のそとなる干し麻のにほひすがしも霧を吹く風
温泉に入りて一夜ねむりぬ陸奥の山の下なる入海の音
平らかに蝦夷の楢原曇りたり歩みとどまらぬ我は旅人
笹の中に一人とぞ思ひ立ちとまる我の頭に暑さは徹る
家裏の畑の馬鈴薯掘る母の尻に物言へりまる裸の子
移り来し人竝び住む小屋づくり親しましもよ蕎麦畑の中に
北蝦夷の地のはてしと思ひ立つ笹山の風は騒ぎつつあり
笹の中のみ墓のまへに心親し従弟と二人物打ち語る
昼のあつさ忽ち冷ゆる山道の土ほこり深くわが歩みをり
蝦夷のはてに命終れりこれの世に只一人なる子に抱かれて
北蝦夷の海べの町に家をもつ弟の顔はまだ子どもなり
阿武隈の川の雨雲低く垂り水の音かそかに夕さりにけり
わが庭のしげりにこもるゑごの果の白き粉をふく夏ふけにけり
落葉松の萌黄の林雉子立ち時の間山を寂しく思ほゆ
からまつの木の間に白き木柵にかけて乾したり赤子のきもの
夏ふくる芒青野の照りかげり寂しくもあるか立ちつつあれば