北原白秋

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麗うらと 大空晴れて 人殺す 鉄砲つくる 音もきこゆる

そこ通る 女子をとらへて はだかにせう、といふたれば皆 逃げてけるかも

雨ふれば 青き御空ぞ なつかしき その青空も 寂しと思へど

雨ふれば おほよそごころ ねもごろに 濡れてかをりぬ 雫するまで

摩耶の乳 長閑にふふます いとけなき 仏の息も ききぬべき日か

麗らかに 頭まろめて 鳥のこゑ きいてゐる、といふ心に なりにけるかも

幽かなれば 人に知らゆな 雀の巣 雀ゐるとは 人に知らゆな

雀のみ 住みてささ啼く 雀の巣 卵守るとは 人に知らゆな

春は軒の 雀が宿の 巣藁にも 紅き毛糸の 垂れて見えけり

月読の 光の紅く 射すところ 雀は啼けり 軒の古巣に

巣の中に いくつ卵を まもればか 雀は寝ぬぞ 春の月夜に

天つ日の 光の強く 射すところ 卵はひとつ のこされにけり

しら玉の 雀の卵 寂しければ 人に知られで 春過ぎむとす

しら玉の 雀の卵 ひとつわれて まこと雀の 声立てむ何時

おのづから 水のながれの 寒竹の 下ゆくときは 声立つるなり

せうせうと 降りくるものか 村時雨 寒竹林に 人鉦をうつ

ひと色に 寒くにじめる 冬の山 雨過ぎぬらし 竹のみな靡く

枯れ枯れの 石に日のあたり おぼつかな 寒竹の影が やや疎らなる

そぼ濡れて 竹に雀が とまりたり 二羽になりたり また一羽来て

いそがしく 濡羽つくろふ 雀ゐて 夕かげり早し 四五本の竹

和歌と俳句