芝庭の 日向最寄りに くむ酒の 老よろしもよ 小春過ぎの雲
日向べは 木々の紅葉の 過ぎぬれど まだあたたかし 筵敷き竝む
わが家は 煙突の壁の 蔦かづら 日ましに染みて 煙立てにけり
わが窗は 日向の壁の 鍵の手を 常春藤もみでて 照りかへしつつ
わが家は ポウチの棚の 郁子の實の こよなく熟れて 冬來りける
とり食めば 核は多けど 歯にしみて すがすがしかも 郁子の實のつゆ
こもごもに 郁子と通草を とり食みて 郁子がよしちふ この子があはれ
郁子食むと ひたぶるの子らや うちすすり しじに核吐き 眼もまじろがず
おほかたに 遊び足りたり 夜ふけたり 子らよ寝なむ また明日もあらむ
多摩川に 砂利あぐる音の 風向きを ひと日きこえて 寒あけずいまだ
日につのる 寒さもちこたへ 諸の葉の かがやける見れば 椎よ冬の葉
思ひ屈し ぬくき日あたりて 出て見れば かへるでの根に 雪ぞ光れる
かがみゐて 寒き日向や 下心 ふかく侮づる子らに 隙與へけり
淡々と 火の見の灯あし たちにけり すぐろにほそき 木のこずゑより
思ひ繼ぎ 長きはしがき 了へにけり 夜ふけかすかに 吠ゆるものあり
かんとうちて 半鐘の音 とめにけり 火の消え方は 夜も凍みるらむ
霜の空 透きとほり青し この暁や 月は落ちつつ 松二本見ゆ
夜ふけて 寒くひびかふ 音ながら 沿線に住めば けだしよろしき
ひそかに 吾が本質を うたがはず 大禪寺柿に 刃をすかとあてぬ
ゐろり火に 蛇経を讀めば おもしろく 身うちゆるがして 走るリズムあり
夜はふけぬ しゆんしゆんとして 煮こごれる 林檎のつゆの 紅き酢醤
野砲隊 とほりしがとどろきやまず いづべの霜に 闌けにつつあらむ