北原白秋

25 26 27 28 29 30 31 32 33 34

青鷺に しら鷺まじり あはれなり 氷のひびの 水に薄きを

圦もやや 角ぐむ葦の さ青の芽に 電球がひとつ 流れ寄りつつ

たたなはる 木群のうしろ 明るめり 月の光の 立ちそめにけり

硝子戸に のぼりて黄なる 圓き月 瑜伽師地論を 讀みつぐ我は

破れはてて むなしき鳥屋の 葡萄棚 葡萄の房は 垂りそめにけり

むべの棚 いまだ青けど ひえびえと 日ざしとほりて 風うごくなり

もちの葉の 葉越しに見ゆる わくら葉は 櫻なるらし よくそよぎつつ

木のうれに ふけつつ澱む 夜の曇り 甜瓜のごとき 月黄ばみ在り

高々と のうぜんかづら 咲きにけり ただにあはれと 觀つつ籠らむ

家垣の ひともと木槿 光發し 開くただちを 土埃來る

もちの木は 葉につむ埃 いちじるし じりじりと照る 眞日の光を

街道の 地響しげき 日のさかり 鏡にうごく 木はちすの花

窗の上に 垂りつつそよぐ 蔦かづら 涼風たちて 實の綴り初む

吾が宿の 萩の中垣 荒れはてぬ いきれて暑き 男ぐさの花

青萱の 野萱にまじる さざれ この朝涼を すでに綴れり

颱風の 逸れつつしげき あふり雨 白萩の花の しとど濡れたる

夕ほてり このごろつづく 芝生には 木の椅子が二つ 猫萩のはな

日時計の 夕かげ長く なりにけり 宮城野萩の 叢咲の花

雨のふり 觀の幽けくて 眞深なり からかさもみの しだり緒の笠

高野槇 雨こまかなり 秋もやや けしきだちつつ 冷えまさるらし

和歌と俳句