和歌と俳句

加賀千代女

影坊の出ては隠るる後の月

秋風の山をまはるや鐘の声

穂に出でぬ薄さそふや秋の風

笠を置とこを見ありく花野

早稲くさいものを敷てやたのもの日

菊の香や茶に押合ふも此日より

咲花をいくつか捨てけふの菊

人の世話に手もうつくしき菊合

きくの花ふりわけ髪の見事也

きくの畑あすからもとの朝寝かな

菊の香や流れて草の上までも

菊畑や夢に彳む八日の夜

音添ふて雨にしづまるかな

此家はわらかと思ふきぬた哉

晩鐘にちらした里のきぬたかな

松の琴に鳩も吹そふしらべ哉

鳩の吹ころ青ふ吹松ばかり

冬瓜の枕さだむるかかしかな

風の日はよふ仕事するかかしかな

風の日は余所の仕事を鳴子哉

茸狩の夢を袋でもどりけり

茸狩やちいさき者に笑はるる

ながき夜をひとりは寝じと鹿の鳴

鹿の恋後は角折る心こそ

たつや余所のわかれに暮まさり