和歌と俳句

加賀千代女

ゆふかぜに蜘も影かる牡丹かな

垣間より隣あやかる牡丹かな

てふてふの夫婦寝あまるぼたん

戻りては灯で見る庵のぼたんかな

老の心見る日のながき牡丹かな

おもたさの目にあつまるや更衣

花の香にうしろ見せてや更衣

脱捨の山につもるや更衣

冬からの皺をぬがばや更衣

葉桜の昔忘れてすずみけり

葉桜や眼にたつものは蝶ばかり

葉桜や鳥の朝寝も目にたたず

音なしに風もしのぶや軒あやめ

風よりも雫のものぞ軒あやめ

洛外やとひはしりたる軒あやめ

風さけて入日涼しき菖蒲の日

それぞれに名乗て出る若葉

ぬれ色の笠は若葉の雫にて

濯ふ川や蔦の若葉もあゆみ初

晩鐘に雫もちらぬ若葉

竹の子やその日のうちにひとり立

竹の子やふみもわからぬ水の上

竹の子や何を踏えて水の上

つばくらもみづからでなし花御堂

蚊屋つりの草もさげてや花御堂