和歌と俳句

加賀千代女

文月や空にまたるるひかりあり

あきたつや様ありげなり庭の草

たつ秋の道とおもふはすすき哉

秋たつやはじめて葛のあちら向

秋たつや寺から染て高燈籠

秋来ぬと東ながめてをりにけり

秋立やすすきの糸もとけてをる

秋立や風幾たびも聞直し

蚊屋の浪かほにぬるるや今朝の秋

琴の音の我にかよふや今朝の秋

見ゆるかとまづ仰向やけさの秋

行ちがふ明ぼのくらし今朝の秋

唐崎や露につゆ置けさの秋

萩の葉のもの言かほやけさの秋

はつあきやまだ顕はれぬ庭の色

初秋やすすきにもつた風ばかり

初秋や独はらふてもののちり

文月の返しに落る一葉

ほしあいを何とかおもふ女郎花

ほし合や心して行雲の脚

星の名残露にもよらで袖袂

星合やどちからものを言初む

朝かほや星のわかれをあちら向

かささぎの声や一夜の橋の音

鵲やねぶたき苫の八日哉