紙魚老いて白毫の如し秋の暮 耕衣
娘の家も憚るものや秋のくれ 汀女
風上に馬ゐて秋暮急な村 不死男
戻りしこと妻も気づかず秋の暮 林火
一燈過ぎつぎの燈遠し秋の暮 林火
棄てられし辻神たちの秋の暮 楸邨
妻の来る予感外れて秋の暮 波郷
後南朝のちひさき寺や秋の暮 青畝
秋の暮消ぬがに小さき紅雀 汀女
城の階小暗く急や秋の暮 立子
秋の暮なほ暮れぬ間を樹胎仏 楸邨
看護婦の他けふは見ず秋の暮 波郷
秋の暮あふぐや鳶の翼のうら 悌二郎
子守とはときにうつろに秋暮るる 汀女
地下街も旅をゆくみち秋の暮 爽雨
黄金の真実人体秋の暮 耕衣
山裏へ行く道見えて秋の暮 汀女
窓によるおのづとふたり秋の暮 爽雨
馬子の綱鎌首つくる秋のくれ 静塔
鴉横に居て肩痛し秋の暮 耕衣
瓔珞と見れば水なり秋の暮 耕衣
出でて沿ふわが家のまがき秋の暮 爽雨
金色の古池のこる秋の暮 耕衣
何者の足行く秋暮金泥経 耕衣
足わらねば足りて在るなり秋の暮 耕衣
此の池をもつと知りたし秋の暮 耕衣
物感として頭脳在り秋の暮 耕衣
友の訃に山怖しく秋の暮 みどり女