日野草城
ひもじさに杉の香を聞く秋の山
大川のいつもの濁り水の秋
迎賓に秋の真清水打たれけり
二人居て橋の修理や水の秋
秋水に高く架れる小橋かな
秋水蕩々として慕情楫の音
門灯の低く灯りぬ秋出水
流されて吼え立つ牛や秋出水
山暮れて寂しうなりし花野かな
晩鐘のひびきけぶらふ花野かな
道暮れて右も左も刈田かな
初潮に物を棄てたる娼家かな
浅く浮いて沈みし魚や葉月汐
暮れきらぬ灯台の灯や葉月汐
不知火に酔余の盞を擲たん
秋の灯の明るさに堪へぬ心かな
絵襖の波のしろがね秋の灯に
寂しさは秋の灯に出し鼠かな
さびしくば秋の灯消さで眠るべし
秋の灯の隈もなければ寂しうて