日野草城
泣きほけし妻の目鼻やちちろ虫
飽食のかろき疲れやちちろ虫
酔ざめの水のうまさよちちろ虫
古籠に飼はれて青ききりぎりす
更闌けて鳴かぬ青さやきりぎりす
寂しさやしらじら明けのきりぎりす
後庭の草木晴れたり法師蝉
幽篁や一つ鳴き澄む法師蝉
蜩に刻々松の暮色かな
蜩に夕べの池をめぐりけり
蜩や鏗々として鳴き澄める
藪蔭の小田も稔りぬ秋蛙
紅楓にひえびえ落つる小滝かな
夕水の光あへなき紅葉かな
碧潭に紅葉襲ねて夕寒き
かさこそと瑠璃鳥のゐる紅葉かな
今は早酔絶え絶えや夕紅葉
夕冷の到る紅葉を手折りけり
常盤木に叛意ほのめく楓かな
横日して明るき藪や竹の春
深草へ来て三幹の竹の春