日野草城
鯊釣るや既に散りそめ柳の葉
竿伝ふ濃き夕栄や鯊を釣る
鯊釣や川を白めて暮の雨
海光の一村鰯干しにけり
つよ風に羽薄く飛べるとんぼかな
腋の下明るう飛べるとんぼかな
盛砂へ来て赤蜻蛉とまりけり
大やんま漂ふ月の垣穂かな
女の童一人まじれり蜻蛉釣
白々と松にとまりぬ秋の蝶
陰晴の松をめぐりて秋の蝶
秋の蝶晴れし廂にまつはりて
秋の蚊の白紙へ堕つ最期かな
秋の蚊のほのかに見えてなきにけり
夜の比叡へ登る人あり秋蛍
かがまりて虫の音をきく日和かな
虫なくや灯影隈なき籠の中
遠き虫に声を浮かせてそこの虫
うらぶれて虫のまなこに眺め入る
虫時雨わきて今宵は親恋し
須弥壇の真昼虫鳴く廃寺かな