源家長
今日はまた知らぬ野原に行き暮れぬいづれの山か月は出づらむ
俊成女
ふるさとも秋はゆふべをかたみとて風のみおくる小野の篠原
雅経朝臣
いたづらに立つや浅間の夕けぶり里とひかぬるをちこちの山
宜秋門院丹後
都をば天つ空とも聞かざりき何ながむらむ雲のはたてを
藤原秀能
草まくらゆふべの空を人とはばなきても告げよ初雁の聲
有家朝臣
ふしわびぬ篠の小笹のかり枕はかなの露やひとよばかりに
有家朝臣
岩がねの床にあらしをかたしきてひとりや寝なむ小夜の中山
藤原業清
誰となき宿のゆふべを契りにてかはるあるじを幾夜とふらむ
鴨長明
枕とていづれの草に契るらむ行くをかぎりの野邊の夕暮れ
民部卿成範
道のべの草の青葉に駒とめてなほふるさとをかへりみるかな
禅性法師
初瀬山夕越え暮れてやどとへば三輪の檜原に秋風ぞ吹く
藤原秀能
さらぬだに秋の旅寝はかなしきに松に吹くなりとこの山風
藤原定家朝臣
忘れなむ待つとな告げそなかなかにいなばの山の峯の秋風
藤原家隆朝臣
契らねど一夜は過ぎぬ清美潟なみにわかるるあかつきの空
藤原家隆朝臣
ふるさとにたのめし人もすゑの松待つらむ袖になみやこすらむ
入道前関白太政大臣兼実
日を経つつみやこしのぶの浦さびて波よりほかのおとづれもなし
藤原顕仲
さすらふるわが身にしあれば象潟や蜑の苫屋にあまたたび寝ぬ
皇太后宮大夫俊成
難波人葦火焚く屋にやどかりてすずろに袖のしほたるるかな
權僧正雅縁
また越えむ人もとまらばあはれ知れわが折りしける峯の椎柴
前右大将頼朝
道すがら富士の煙もわかざりき晴るる間もなき空のけしきに