和歌と俳句

春の人十六億の白鳩の舞ふにたとへんまた戦せず

ひがし山青蓮院のあたりよりもも色の日の歩みくるかな

南天は雨もみぞれもしみ入らぬ朱のこちたさを歎くみづから

くづれたる椿は同じはらからのあまたと猶も寄り添ひて寝る

美くしくおのれのままに生ひ出でし野馬の声する初春のかぜ

雀子が網笠被たる早春の牡丹をのぞく小き足おと

いと小き筍めきし塔にある閻浮檀金の福寿草かな

初日影弓ひく人の姿する二尺の梅にものを云ひ懸く

元日のたそがれ悲し大空に冬のこころの帰りくるかな

熊野より熊の牙など送られて子に語ること尽きぬ正月

わが子等が小姓のやうに袴して板の廊下を通ふ初春

新しき春の初めをよろこびぬ冬籠なるかたちのままに

水仙の次々開き新しきけぢめつくるがあぢきなきかな

早春の銀の屏風に新しき歌書くさまの梅の花かな

水色のうすもの着たる夕風と並びて語る木蓮の花

悲しくも乱れ散るなり検非違使の夢を見たるや山ざくら花

めでたくも二心なきを置く小き人と親々のため

灯を置けど物をも云はず歌へども皷も打たず雛のえをとこ

白蘭の蕾のやうにあてやかに雛の袴はふくらめるかな

くれなゐの尾をば桜にかけたるは山鳥に似る春の落日

うち黙し涙ぐみたる山ありぬ弥生の春の落つる日のもと

筑紫路や野は少女子のものならし日傘並ぶる櫨木立かな

櫨の枝白き珊瑚に来て遊ぶ魚かとばかり葉の残るかな

光悦が金を篋りたる城と見ゆ銀杏めでたき熊本の城

いかづちも阿蘇の神馬も降り立ちてすすると思ふ夜の渓川