和歌と俳句

山桜

赤彦
寂しさよ 山ざくら散る 昼にして 五目ならべを すると告げ来し

牧水
田尻なる 雑木が原の 山ざくら ひともと白く 散りゐたりけり

利玄
新道の 道はばひろみ やまざくら ほのじろみつつ 暮れがてぬかも

晶子
病むよりも 淋しき恋を なすよりも 哀れにちれり 山ざくら花

晶子
衰ふる ものも美くし 三十路をば うしろに白き 山ざくら散る

晶子
山ざくら 夢の隣に 建てられし 真白き家の ここちこそすれ

いにしへも火による神や山桜 蛇笏

晶子
一もとの 深山桜の めでたさに 七瀬どよむと 思ふ渓かな

晶子
雫して くろ髪のごと 美くしき 洞にちるなり 山ざくら花

晶子
悲しくも 乱れ散るなり 検非違使の 夢を見たるや 山ざくら花

晶子
あけぼのは うす紫に ひるは紅 夕はしろき 山ざくら花

泊雲
朝の気の天はかゞみや山桜

折りとりし花のしづくや山さくら 蛇笏

亞浪
曙や露とくとくと山桜

耕平
牛通ふ 掘割道の 夕かげに 山ざくら白く 散りたまりたり

耕平
昼の間は 若葉に障へし 山櫻 ゆふべ目に立つは 寂しかりけり