日を待たず若葉の榛の山なれば曙つくる山はみづから
雲よりも淡き色する榛の木の若葉の山に君と来しかな
旅人の夜話なども止むころの廊下になびく温泉の靄
枝となく幹ともあらずさあをなる落葉松の初夏の山
雪かづく穂高の山と湖と萄葡茶の繻子のいたどりの芽と
なつかしくわが山駕籠の左より右にひろがるくろ髪の山
榛名川みどりの絹のふくろより転びいでくる白玉を愛づ
百尺の高きところにわが見るは白き猛火の夏の山川
一もとの深山桜のめでたさに七瀬どよむと思ふ渓かな
唯あるは千年の巌杉木立榛名の神のみやしろの路
雫してくろ髪のごと美くしき洞にちるなり山ざくら花
伊香保風岩にあるよりゆらゆらと山吹靡く駕籠の上かな
浅みどり榛の若葉のつくりたる真洞の奥の熱き噴泉
清らにも梅なほ咲きて伊香保路の皐月の朝にうぐひすぞ啼く
浅みどり風にも散らんほのかなるはかなきいろの榛の一むら
物思ふ身にあらねども山の湯の靄に青くもつつまれぬわれ
心から身も世もあらず散りがたの淋しく見ゆる夏の花かな
踊らんとするも散るをば思へるも皆わが胸のひなげしの花
淋しきは淋しきままに心鳴る皐月の朝となりにけるかな
うすものを昼の間は着るごとし女めきたる初秋の雨
聖書にて智慧の木の実と読みたりし木の実食ひて智慧を失ふ
灯を置けば黄なる魚寄り遊ぶなり君と覗ける加茂の流に
去年見しは白き日輪この朝の東天にある紅き太陽