北原白秋

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海を越ゆる ただち胸うつ 国つ胆 我が筑紫なり 声に荒くも

母の国 筑紫この土 我が踏むと 帰るたちまち 早や童なり

見るただち 顔に溢るる 親しみは 故郷にあれや 帰り来にけり

我が言へば 音の響に 添ふごとく 響き応ふる 国人君は

雲美しき 山門のまほら ここにして 我はや飛ばむ 高き青雲

南風のむた 真夏大野を 我が飛ぶと 明日待ちかねつ 心あがりに

産土よ この山河を かくばかり 直にし見ずて 我恋ひにけり

山門はもうまし耶馬台、いにしへの卑弥呼が国、水清く、野の広らを、 稲豊に酒を醸して、菜は多に油しぼりて、幸ふや潟の貢と、珍の貝・ま珠・照る鰭。 見さくるや童が眉に、霞引く女山・清水。 朝光よ雲居立ち立ち、夕光よ潮満ち満つ。 げにここは邪馬台の国、不知火や筑紫潟、我が郷は善しや。

雲騰り 潮明るき 海のきは うまし耶馬台ぞ 我の母国

筑紫野は 大き出水の 田つづきを 簑笠つけて 人遊ぶかに

筑紫は 我を生ましける 母の国 大き出水の 田の広ら見よ

父我は ここに響けり まつぶさに この愛しかる 山河は見よ

父恋し 母恋してふ 子の雉子は 赤と青とに 染められにけり

夏山は 赤と青との 雉子馬の 清水寺も 雨こめにけり

夏かすむ 女山の岩の 神籠石 老け鶯も 谷にくだるか

我が帰る 心矢のごと ありけらし 早や着きたりと 笑ひて泣かゆ

和歌と俳句