和歌と俳句

藤原良経

院第二度百首

霜の上に己がつばさをかたしきて友なき鴛の小夜ふかき聲

網代守る宇治の里人いかばかりいざよふ波に月を見るらむ

朝日さす氷の上の薄烟まだはれやらぬ淀の川岸

三室山 みねの檜原の つれなきを しをる嵐に 霰ふるなり

山里は幾重か雪の積もるらむ軒端にかかる松のしたをれ

嵐ふく空に乱るる雪の夜に氷ぞ結ぶ夢は結ばず

鳰の海や 釣りするあまの 衣手に 雪の花ちる 志賀の山風

雲はるる 雪のひかりや 白妙の 衣ほすてふ 天の香久山

杣腐たす にぶのかはなみ 跡たえぬ 汀のこほり 峰のしらゆき

月読めば 速くも年の 行く水に 數かきとむる しがらみぞなき

濡れて干す 玉串の葉の 露霜に 天照るひかり 幾世へぬらむ

君が代に 法の流れを 堰とめて 昔の波や 立ち返るらむ

ひさかたの 空の限りも 無き世かな 水の光の 澄まむかぎりは

ゐる塵の 山幾重に 重ねても げにわがくには 動きなき世を

人の世を 何さだめなく 思ひけむ 君が千歳の ありけるものを

知らせばや 恋をするがの 田子の浦 うらみに波の 立たぬ日はなし

うちしのび 岩瀬の山の 谷隠れ 水の心を 汲む人ぞなき

わが恋は まだ知る人も 白菅の 眞野の萩原 つゆももらすな

荒磯の 波よせかくる 岩根松 いはねどねには あらはれぬべし

続後撰集・恋
よそながら かけてぞ思ふ 玉かづら 葛城山の 峰の白雲