太政大臣忠平
春の夜の夢のなかにも思ひきや君なきやどをゆきてみむとは
返し よみ人しらず
やど見れはねてもさめてもこひしくて夢うつつともわかれざりけり
三条右大臣定方
はかなくて世にふるよりは山科の宮の草木とならましものを
返し 兼輔朝臣
山科の宮の草木と君ならば我はしづくにぬるばかりなり
時望朝臣妻
わかれにし程をはてともおもほえずこひしきことの限なければ
右大臣師輔
たねもなき花だに散らぬやどもあるをなどかかたみのこだになからむ
返し 内侍のかみ
結びおきしたねならねどもみるからにいとど忍の草をつむかな
伊勢
ここらよをきくがうちにも悲しきは人の涙もつきやしぬらむ
返し よみ人しらず
聞く人もあはれてふなる別にはいとど涙ぞつきせざりける
三条右大臣定方
いたづらにけふや暮れなむ新しき春の始は昔ながらに
返し 兼輔朝臣
なく涙ふりにし年の衣手は新しきにもかはらざりけり
三条右大臣定方
人の世の思ひにかなふ物ならばわが身は君におくれましやは
兼輔朝臣
ねぬ夢に昔の壁を見つるよりうつつに物ぞ悲しかりける
閑院左大臣
夕されば寝にゆくをしのひとりして妻恋ひすなる声の悲しさ
太政大臣忠平
をみなへしかれにし野辺にすむ人はまづさく花をまたでとも見す
伊勢
なき人の影だに見えぬやり水のそこは涙に流してぞ来し
伊勢
ひとりゆく事こそうけれふるさとのならのならびてみし人もなみ
京極御息所
墨染のこきもうすきも見る時はかさねて物ぞ悲しかりける
右大臣師輔
昨日まで千代とちぎりし君をわがしでの山路にたづぬべきかな