和歌と俳句

釈迢空

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汐入り田は 霜折れ早し。さそはれて 我は到れり。蘆むらのなか

神さびて女夫の河童の見ゆるさへ、あはれなりけり。水漬きの田の霜

村々の 水にとられしをさな子の命をおもふ。見ぬ 親々のため

をさな等は いづこにゆきて生きぬらむ━━。かそけく思ほゆ。親々の願ひ

あたらしき 石の菩薩のあかき 袈裟。その子の親の 名すら つたなき

ひとり出でて 我は遊べり。こだまする 朝日の村は、青山のあひだ

道の霜消えて 草葉の濡れわたる 今朝の歩みの、しづかなるかな

家々に 花はおほかた残らねば、だりやのあけの しがみつきたる

榛も 勝軍木も すべて枯れがれに、山 ものげなき道 登り来ぬ

しづかなる山に向ひて 思へども、おもひ見がたきものこそは あれ

をち方に 屋むら見えたる府中町 八十叢につづきつつ 見ゆ

村なかに 昼日照りたる広き辻。ほしいままにも 人踊るなり

旅人の祭文がたり うらさぶる辞宜正しく 人に替りぬ

声さびてあはれなるをも 聴き居るに、祭文語り かたり進めよ

時遅く 柿の実残る村里の梢見はらす 冬草の上

いきどほるすら くやしとぞ思ふ。我よりもいやしきものが われをののしる

かくしても なほ堪えふべきか。ひたぶるに 才なき奴ら 我をののしる

おもしろき こなや踊りを見て居しが、日野の夕汽車を 忘れ居にけり