和歌と俳句

正岡子規

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上ニシテ 田安宗武 下ニシテ 平賀元義 歌ヨミ二人

血ヲハキシ 病ノ床ノ ツレヅレニ 元義ノ歌 見レバタノシモ

御佛ノ 足ノアトカタ 石ニ彫リ 歌モ彫リタリ 後ノ世ノタメ

我手形 紙ニオシツケ 見テアレド 雲モ起ラズ タダ人ニシテ

もろ駒の おくれさきだち 小倉山 雲踏みわけて 瀧見に行くも

日刊新聞書く 硯の石の 中窪に 眞窪になりて 四千號に満つ

百足らず 八十の硯の 海原に 常波立ちて 日文は絶えず

墨の舟 筆の眞楫を しゝぬきて 硯の海の 干るまで漕ぐも

黒金の 眞金の硯 窪むとも 日文「日本」は 盡くる時あらじ

大き硯 小さ硯を 打ち並べ 日ぶみ書く人 疾書き徐書く

百千文 日にけに書くと 汲みかふる 硯の海に 塵も浮かなくに

百八十の 硯の海に 水湛へ 世の風潮に 舟漕ぎ出づも

くろ金を 硯につくり 椽なす 筆の太筆 染めてし書かん

大君は 神にしませば から山の 高麗の海びも もろしきいませ

朝ながめ 夕ながめして 我庭の 菊の花咲く 待てば久しも

年々に ながめことなる 我庭の 今年の秋は 菊多かりき

我庭に 咲くくれなゐの 菊の花 折りて来にけり 繪に寫すべく

ガラス戸の 外に咲きたる 菊の花 雨に風にも 我見つるかも

我庭の 松の木陰に 菊さけば 昔の人し 思ほゆるかも

我庭に さける黄菊の 一枝を 折らまくもへど 足なへわれは