北原白秋

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水垂の 岩の峡を 垂る水の 蕭々として 真昼なりけり

水垂の 松のかげゆく あはれなり 麗らなる日の べら釣り小舟

城ヶ島の 白百合の花 大きければ 仰ぎてぞあらむ あそびの舟は

大きなる 匍ひ下り松の 枝の上 漣かがやき 鳥ひとつゐる

海雀 つらつらあたま そろへたり 光り消えたり 漣見れば

この憎き 男たらしが つつじの花 ゆすり動かして いつまで泣くぞ

深潭の 崖の上なる 紅躑躅 二人ばつかり 照らしけるかも

恐ろしき 淵のまはりを 海雀 光り列なめ 飛び居りあはれ

かき抱けば 本望安堵の 笑ひごゑ 立てて目つぶる わが妻なれば

帰命頂礼 この時遥か 海雀 光りめぐると 誰か知らめや

帰命頂礼 消えてまた照る 海雀 人は目を閉じ 幽かにひらき

帰命頂礼 誰し知らねば 海雀 耀きの輪を つくりまた消つ

しんしんと 淵に童が 声すなれ 瞰下せば何も なかりけるかな

深潭に ちららちららと 白雪の けはひつめたく 沈む人かも

いつまでも 淵に潜りの 影見えず あまり深くも 潜りけむかも

潜りの子 真逆さまに 頭より 躍り入りたり 親の子なれば

この淵に ひそみて久し 潜りの子 親の子なれば 玉藻刈るらむ

和歌と俳句