北原白秋

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濃き霜の 凍みてさやけき 冬菜畑に 朝の響の 來つつしづけさ

霜いたる 冬の玉菜は 藁しべに きびしく結ひぬ その株ごとに

朝凍の 大野の霜と なりにけり 早やあざやかに 冬菜積みたる

清々に 根引く冬菜は 野に積みて 置き足らはしぬ 横山のごと

水のべに 洗ふ大根を さわさわに 見つつわが行く しろき大根

み冬づく くぬぎ林に 子らと來て 落葉踏みたつる 音のひもじさ

くぬぎ原 ぬけつつとほる 貸家の庭 霜くづれ黒し 落葉まじり踏む

子を負ひて 切通しゆく 影寒し このあたり低き 雑木ひと山

風後の 冬の日あしに ありにけり 通草の散葉 いまだ青きに

このとぼそ 晝も鎖しつつ 寒けさよ 日は光りつつ 一木白樺

風すさぶ 一木白樺 月夜には 影いさぎよし 葉竝ふるひぬ

草くづと 土糞焚きつぐ この日ぐれ 五六頭は居らし 牛の立ちつつ

寒の月 響く夜空と なりにけり しろき梢の 繁み立つ仰げば

冬木照る 月夜すがらや まれまれは 山片附ききて 走る雹あり

白くのみ 月にかがやく ひと束は 紫うすき 根の蓮らし

白菜は みながら白し 月の夜と 霜の光に うづたかく積む

白き菜と 紫うすき 根の蓮 冬はさやかに 厨戸にあり

白菜の 霜にかがよふ 夜明け方 歩き歩きて 鳩は眼聰さ

しらしらと 朝行く鷺の 影見れば 高くは飛ばず 寒き水の田

下り盡す 一夜の霜や この暁を ほろんちょちょちょと 澄む鳥のこゑ

和歌と俳句