北原白秋

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いとどしき 残暑の照りと なりにける 繁立ほそき その赤松に

赤松の 直立つ見れば あきらけく 正面の西日 木膚照らせり

夕かげは にほひこめつつ 靄ごめに 畳みよろしき 松が枝の笠

赤松の 一木が撓る 向う丘 夕かげの中に 風の吹きしく

夕早く 風にさはめく 赤松の 林のほそみ 見るがすずしさ

み寺には 百日紅の 閑かなり 洗足の池の 夏も過ぎたる

池のべの 楊が傍に 咲きあかる 漆の花は まだあはれなり

現世の 漆の花の ひと木立 臈たくしろき 月空にあり

みなぎらふ 夏の光も 過ぎにけり わが對ふ池の 薄らさざなみ

残暑の 日ざし冷め來る さざら波 ただひとりなる 舟は遣るなり

竹煮草 今は穂に垂り しづかなり 鶸茶の莢の 朱のいろの液

隣りびと W.Timacusの 厨には 窗はうち開き フライパンが見ゆ

露つけて 今朝すばらしく 眞青なり うしのしつぺいの 放射線の

露草は 朝露しげし 今朝咲きて 涼しかるらし 黄の小蕊立ち

松の木間 栗の花ぶさ 返り咲き 日光室に 日の光る見ゆ

朝めざめ 清にすがしき 戸は開けて ヒマラヤ杉は 大粒の霧

吾が起きて ただに瞰下す 門の戸を 濃霧しづもり 谷地はこもりぬ

森と言へば 叢立つ霧の こちごちに 氣高く厚く 壘立てたる

朝月夜 いまだも夜霧 とどこほり ひむがしの丘に 日あし立ちたる

高き屋に 光射し満つ 我が丘を 明暗の谷の 街ぞとどろく

窗ちかき ヒマラヤ杉の 秀は搖れて 光り來にけり 月出づる方

わが門は ヒマラヤ杉の 朝月夜 影がそよげり 鋪石のうへに

和歌と俳句