北原白秋

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板縁は 月夜ふけつつ 玻璃のかげ 引きてゐにけり 光る幾線

總玻璃の とのもの月夜 ふけにけり しろくかびろく 庭石は見ゆ

石の面に 月の光は 冷えはてて 音ひとつ無し ただにその影

月夜ふかし 光しづもる 木々の間に 羽蟲かと思ふ 影のちらつく

裏うがつ 月の光と なりにけり 黝き茂みの ゆづり葉の垂り

一木櫨 いよよ照葉の ことごとに 染みて出來にけり 櫨はその葉に

觀つつあれば 櫨の紅葉の 一ひらちり また二葉ちりぬ 灯の照る石に

石のべの 櫨の落葉は よく掃きて また眺め居り 散りてたまるを

櫨紅葉 下照る土は しめやぎて 帚目正し ちる二葉三葉

はらら散る 櫨は落葉ぞ おもしろき 表火のごとく 裏べ寂びたる

石のべに 櫨の落葉を 吹きためて はららきし風も 止みゐたりける

立襖 もみぢにあかる 夕の間を 籠らふふかき 日ざしなりける

和歌と俳句