墓原の 木立の奥所 夜はふかし 月の光の たたずみにけり
物の風 氣に立ち來らし 木の間洩る 月の光の わななきにけり
墓の座に 鐵砲百合の 粉は觸れて 日の照はげし 我はぬかづく
命かよふ 我かとも思ふ 朝じめり この墓庭の 青苔のいろ
青苔に 染みうつくしき 斑照り この木洩れ日は 幾時あらむ
この墓に 日ざししづけく なりにけり きのふも來り 永く居りにき
蒸しつつも 現ならぬか この墓地の 日ざかりを靄の 立ちてあはれさ
日のうちは なにかつやめく 物のこゑ 墓原ごもり ひびきゐるなり
墓原や 晝の霞の 中あがる 紋白蝶の翅の ちらと輝りたる
眼はあげて 吾が附く道の けどほさよ 白南風の空を ひとつ飛ぶ蝶
氣にふかき 蝶のむつみや 誰知らぬ 墓うらの照りの すでに久しさ
紙のごと ひらひらとこそ ありにけれ 蝶の双つぞ 照り合へりける
朝は見て 息もつきあへず あら墓や 力張りきる 鐵砲百合の花
新土は 朝にいつくし 雨名残 いとどしくすがし 鐵砲百合もよし
吾が門の 向ひの墓の 夕月夜 水うたせたる おしろいのはな
氣色だち 神輿練り來る ゆふぐれは 茅蜩のこゑも 墓地にとほれり
水うちて 月の門邊と なりにけり 泡盛の甕に 柄杓添へ置く
市中は 残る暑さを 樫の森や 月あかうして 向ひ墓原
墓原や 石の角目に 照る月の 光うち蒼み 夜ただ木しづく