朝なさな 求めてつつしむ 墓の原に 新埴土の いろのつゆけさ
あさみどり 若葉映らふ この墓や 埴のぬめりの 何ぞつやめく
我は誰ぞ 筑は曳きつつ 新墓の 日に殖ゆるすら 朝眼楽しむ
新土に 草の香ながれ 風疾し 何思ふ我の うつくしみ佇つ
朝東風の 吹きひるがへす 朴の葉は 葉おもてひろく すがしかりけり
吹きはらふ 風さき清に この朝や 靄は霽れゆきて 天王寺の塔
この道や 朝は葉づたふ 木しづくの しづけかりけり 石にひびきて
若葉洩る 朝の光は 父われの 麥稈帽に 沁みて子が手に
子を連れて 墓地は若葉の 日のひかり しみじみと思ふ すこやけき息
空しかり 死にし幽けき 爲すなかり 我は世に生きて 繁に喜ぶ
吹きちらふ 物みな涼し 朝東風や 石塔うへの 藍微塵の花
石のべは 三角柏の 葉ごもりに 蚊の聲ほそし 立ちてゐにけり
犬牽くと 墓地をとめぐる 朝涼は 力張るらし 草分きにけり
草間来て 荒く息づく 面がまへ ブルドツグ勢り 手綱張り引く
若葉どき 雲形定規 かきいだき 学生は行く 燃ゆるその眼眸
若葉森 早や鳴き勢ふ 春蝉の 若やぐ子らは 思なけむか
朴の花 白くむらがる 夜明がた ひむがしの空に 雷はとどろく
ひむがしに 群れてかがよふ しろき花 朴の喬木ぞ 木立してけれ
生けらくは 生くるにしかず 朴の木も 木高く群れて 花ひらくなり
現身は 生きて朝間ぞ すずしけれ 愚かなりけり 死にてむなしさ
光發し その清しさは かぎりなし 朴は木高く 白き花群