北原白秋

9 10 11 12 13 14 15 16 17 18

菩提樹の 落つる葉早し 尾を曳きて めづらにつどふ 色鳥の影

吾庭は み冬ちかきに 刈りこみて 躑躅のほそり 目に立ちにけり

空寒し 今は葉も無き 菩提樹の 木膚かぐろく 伐口のいろ

ひえびえし 冬の日ざしと なりにける 土に落葉の 光れる見れば

かへるでの 枝こまごまと ありにけり 葉なみふるひて 今はしづけさ

まれまれに 椎の葉にもつ たまり日も 照りはかへさず 冷えまさるらし

椎の葉に 冬の日のある ほどほどは うれしき珠數の 珠も磨るなり

錦木の 時雨紅葉と なりにけり ふりみふらずみ 日にくすみつつ

冬青の葉に 走る氷雨の 音聴けば 日のくれぐれは よく弾くなり

目にたちて 菊は白けど 置く霜の むらさきの凍み 光こもれり

菊の香の こもりてぬくき 冬日向 蒲團の綿は ゆたにうちつつ

墓原の 空地に繁き ゑのこぐさ 子ら踏み荒らし 地膚すら出つ

墓地裏も 集ふ子供の 影さむき 冬の薄日の 照りとなりにき

墓地裏に 騒ぐ子供の こゑきけば おほに澱めり 霙かも來む

朝しぐれ 塔の庇の あをあをと 木立はづれに 見えて寒けさ

向う墓地 冬木したしく なりにけり こちごちの靄は 落葉焚くなり

上光る けだし榎の 乾葉ならむ こまごまと溝を ふりうづめたる

凍土に なにか落葉の 二葉三葉 朝早き風に そそ走りつつ

冬の雨の 石にひびかふ 墓地の闇 母と來る子は 歩みとどめず

墓原を 歸り來る子の こゑきけば 氷雨すさまじく ふり亂るらし

をさな兒は 軍歌うたひて いさぎよし 外套に靴に 氷雨はじき來る

和歌と俳句