北原白秋

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末つひに 人の命は 長からじ 眼には笑みつつ 肩喘ぎけり

水さしに 水はあらぬを ほそぼそと 吸ひほけにけり 透きとほるもの

かくしつつ 人の命は 過ぎなむや ちかぢかと眼を 寄せて見むとす

眼力 かくのごとくば 眞夏さらず あはれほそぼそと 人は死にせむ

山なす ここだくの書 ほこりつもり 暑き日なかを 息繼げり君は

生きざらむ 命思はず 仰ぎ寝て 手は拱みにけり 敢て息繼ぎ

下冷えて 額ににじむ 薄ら汗 おもほえばしじに 君も生きにき

二階に 咳ひびきけり かいかがみ 今はすべしなし 靴の紐むすぶ

おもての光 くわうくわうと 流れたり 強ひてまともに 眼は向けて出つ

いたいたし 脚のほそりの 眼をさらず 我は踏みありく 光る直土

眞夏過ぎ 簾うごかす 廂合の 朝の涼かぜを 君はたのめぬ

うちそよぎ 風吹きかよふ ゆりの葉に 朝は朝日の 透きてすずしさ

廣き葉の 半は黄なる 本つ枝に 早や風涼し うちかがむ猫

ひとすぢに 夏野よこぎる 道しろし おのづからなる 歩みつづけむ

道のべの 車前草硬く なりにけり 眞日明うして 群るる子鴉

風ひびく 葉廣篠懸 諸枝立ち あざやけきさ青の 火立騰れり

ポプラ葉の かがよふ見れば 涼風立ち さながらに日の 光るさざなみ

吹く風の 幅は揉みぬく 栗の葉の 葉あひに青く 毬の群れたる

夕かげの おもてに移る 合歓の花 ほのかに君も ねむりたまひぬ

和歌と俳句