北原白秋

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むらさきの こもりしたしく なりにけり 見てのみか居らむ 薄き障子を

雪あかり 早やすべしなし 張りつよき 白き障子に 燈は向けてあらむ

大君の 御悩の二ユース きこえ來ぬ 絶えて音なき 霜夜しづもり

霜の凝り 堪へてこの夜も すわりたり ラヂオの二ユース 聲せまりたり

霜くだる 今宵のラヂオ おぎろなし 心とどろく ひと時隔きに

霜の夜の ラヂオの二ユース はてにけり 灯は明うして いたくしづけさ

縁の戸に ひびく霜夜の 玻璃の罅 ひたなげき寝ず 御寶我は

大君は 神にしませば この霜の とほる夜ふけは 聴きておはさむ

冷えとほる ほどろの霜や 冬青の葉の 垂り葉の光 ゆらぎ止みたる

現神 天皇に ましまして なほし常無く 坐すがかしこさ

あらたまの 年立ちかへる 日は見えて 神あがりましぬ 霜のしろきに

健けく 常は坐さずも 大御命 長く坐せよと 仰ぎしものを

ほがらけき 崇きたふとき 大御業 つがせたまひき 短かかりにき

石の面に いやさむざむと 日はかげり たづき知らずも 生ける蟻匐ふ

冬木の 根に凍む土の 張り乾き かうかうと響く 道を行くなり

梅もどき 籠に挿しつつ 用は無し 來馴れし人の 來れば待つなり

吾妹子が 挿してうれしき 落霜紅 オンスコツプの くちばしよしも

和歌と俳句