北原白秋

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枯枝に 白銀かがる 月の夜は 光ほそうして 冱えにけるかな

霜の凍み いたもきびしき 土のうへに 南天の紅葉 はらら散りたる

榊の實 黝ずむ觀れば 袖垣の 結ひ目も凍みぬ 霜の氣に立ち

墓原の 花すてどころ 霜ふかし つくづくと今朝は 我もきびしき

霜ふかき 花すてどころ 目につきて 南天の實は 鈴の赤玉

山茶花の 最寄りの日向 しづけくて たまたま來れば 子らつどひけり

童どち 足踏しつつ まだ小さし 山茶花あかく 咲きにけるかな

たかだかと 冬木の朱實 垂りにけり きびしくも凍むか 向ひ墓原

暮の靄 子が背嚢の 毛に凍みて しろく粒だつ 寒到りけり

冬木原 寒の靄ごもり 行き消ゆる 人あし見れば 暮せまりつつ

暮れぎはの 寒の靄かかる 冬木原 外套あかき 子も來るなり

冬すでに 頬のみ燃え立つ 雄の雉子の 駈け走る見れば 日もつまりけり

石のべの 紫蘭の莢に 來て光る 蜻蛉の翅も 小さうなりにけり

この墓に 凍みつつ白き 山茶花の 蕊あざやけき 寒は來りぬ

墓原の 遅き月夜の 石だたみ 山茶花ちらし 止む旋風あり

今朝も見る 閼伽の氷の さやけくて 子はたたきゆく 墓石ごとに

山茶花は 末もつぼめど 濃き紅の 上凍くろし つひに開かず

もんもんと ふりつもる 朝まだき 知音の墓は 求めて親しさ

雪は觀て 早き朝餐を たおたおと 木ぶりをかしく 搖り出しづけさ

薄墨と けぶる低めの 空にして よにしづけきは 百日紅の雪

人踏みし 雪の窪みに 聲はして なにかひもじき 雀入りをり

さるすべり 枝のぬめりに つむ雪の 時しづれする 聲のみしろし

和歌と俳句