北原白秋

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いささかは 庭の芝生の ふちどりと 苺のしろき 早咲きの花

麥の間に 植ゑて肥やる 茄子のうね 麥は穂に立ち 茄子の花はまだ

蠶豆の 裏吹く白き 晝の風 ものの氣遠く 夏はさみしき

夏すでに 穂麥にからむ 晝貌の 莟よぢれて 花二つ三つ

玄土は 光とほらず 物の根の 下凍ふかし 春來るなし

玄土の なじまぬ土の 畑つもの 季遅れたり 白南風を而も

玄土は 眞土ならねば 水入れて 深くぬめるなし 早稲田根づかず

蛙鳴く 草田のいきれ たがやさず 梅雨は向へど 馬も借り來ず

玄土の 小田よ十代田の 栗の穂の 光しらけて やをら代掻く

代掻きの 眞夏來れり 出でよ出でよ とみに見えたり 玄土のほけ

まだ鋤かず 狭田の田岸の 鴨萱の 根を泳ぎつつ 蛙らはゐる

青日射 しげき莠の 下草に 音は立ちにけり 早き蟲の音

夏の田や いまだ鋤かねど ぬめり田の むらさきの泥 光りまされり

草ごみに 荒く切りゆく 田の土は 犂の刃型の 紫の塊

藁床に 起きてなげけば 蚊のこゑも 立ちてゐにけり ころろ夜蛙

樂しみと 蛙聴く夜の 水口は 水も遊ぶか 音ちよろゆく

青梅の 幹掻き立つる 母の猫 仔猫は飛べる 蝶を見あげぬ

野茨は いとどしろきに 層厚き 薔薇は濡れて 肉いろの花

黄金の 鐵鈷雲の 巨き雲 ただに押し騰り 晝は久しさ

入日蔽ふ 鐵鈷雲は 雨雲の 下ふらしたり すごく焼けつつ

眞東や ただに反り立つ 巨きなる 鐵鈷雲は 一つ根の雲

日のさかり 鐵鈷雲の 傍あがる 神立雲の おどろ三つ峯

和歌と俳句