秩父宮 召したまふなり あなかしこ 麻布第三聯隊に 參ゐのぼる我は
早や早やと 召したまふとよ 我が足ども 踏處さだまらず 營門を今は
わが君は 直立ちおはし 御眼鏡に ほほゑましけり 此方見まして
最敬禮して 眼がしらあつく なりにけり すがすがしとも 若やかに坐す
麻布第三聯隊 春まだ淺し うやうやと 心ひきしまり 高きにのぼる
兵士は うやまひあつし 竹刀とり お前にとうと 聲徹り撃つ
激しく うちあふ竹刀 眼には入れ この畏こさに 面も小手もわかず
營庭の 老木の櫻 過ぎにけり われは立ちつくす 光る眞土に
立ち待つと 心澄みゐる 晝さなか 兵あらはれて 來り列竝む
わが庭に 歩兵第三聯隊 竝び立ち 隊歌うたふと 聲大いにあがる
葉ざくらは 風やや強し 耳とめて 宮の御聲を 聴きまつらくは
瓶子とらせ 御酒はたぶなり 御さかづき 持つ手ふるへて 泣きをりわれは
あなかしこ 宮のお前に 頸根つき なんぞほのりと 酒の乗り來る
この御酒や 臣もささげて 醉ひにけり ゆるしたばりて 歌ひけりのどに
春の夜は 闌けにたらしも みさぶらひ 遊ぶ今宵も 闌けにたらしも
うちつけに ただに胸うつ 歌ならず 心ひそめて 我が歌は觀よ
命なり ありのままなる 觀のながめ 秘密荘嚴の 相しぞ思ふ