北原白秋

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群鶏の 白き鶏ゐる 背戸ながら 田にはけざむき 影ばかり見ゆ

晝の間も 冬の田の面は けざむくて 何か凍みつつ 影のかぐろさ

冬の田の 門田の泥に ふる雨の この夜氷雨の 音立てにける

朝の田の 澄みつつあかる 水のいろ 昨夜の氷雨か ふりたまりたる

冬の田よ しきり光れど 日のうちも おほにかぐろく さむき稲莖

冬の田の こごれる泥に すむ魚の 蛙の蛇の こゑもせなくに

土ふかく 蛇はひそむと とろほろと 眼もつぶるらむ 食べはせなくに

聲は無し ただに月夜の 田の泥に おのれ身がくり 冬眠るもの

冬の田の 足跡見れば 入り亂り 氷雨たまれり 深き水の田

冬の田は 稲ぐき黒き 列竝に 鱗だちたり 美き氷張り

冬の田に 月の光の 來るとき 稲莖は見ゆ さざら薄氷

冬の田の 深田の氷 罅びわれて 月の夜頃は よく光るなり

襖には 猫の物食む 大きかげ 夜寒ひそかに 吾れも食みをる

白き猫 繁み身じろぐ 毛のつやの しづかを霜は 外にくだるらし

怪しく 閑けかりしか 夜明がた 忽を霜の 大いに到れり

冬の夜の ストーブ守れば 我が行きし 沙漠をぞおもふ 駱駝の足音

夜は深し ただにしづけく ゐるわれを ストーブの熱り 痛む眼に來る

時ならず 寒き夜ふけに とどろくは 軍需品はこぶ 貨車にkもあらむ

聴くものに はらつく冬の 雨ながら 月夜なりけり 眼鏡拭きをる

雨まじり 雪かふるらし 夜のふけを 音には立ちつつ 眼には白かり

うすうすと 夜目にも雪ぞ つもりける あたりはいまだ 雨の音して

和歌と俳句