北原白秋

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庭の土 風に罅だつ 冬の曝れ 鼠小走り ただち隠れぬ

目もすまに 凍みつつ玄き 冬の土 玻璃の缺片すら 光りかへさず

冬の土 こごろきびしく なりにけり 球根を埋めて にじむもの待つ

冬の土 しみみ掻きたる 種床に ひとりさやけさや 白き猫ゐる

種床に うづくむ猫の 今朝はゐて 時ならぬ白き 華ぞ咲きたる

野にあれば 季のうつりの しづかなり は明らかに 人はすなほさ

三冬月 谷地の畠の とりどりに 霜置き足らし 我ぞ歎ける

霜疊 清にましろき 萱の枯れ 我が起き起きの 心きびしさ

霜と言へば 雑木の竝木 染みつくす 田川の岸も 目に緊るなり

霜は今は いたりつくして しづかなり 畦つたひ來る 庭鳥のこゑ

形ばかり 門に小松は うちつけて ただに來向ふ 春を待つわれは

篁を 松をこの家に 常に見て わが足れりけり なにぞ今さら

竹山は おもての小舎の 蓆戸に 日のあたりゐて 寒き物音

篁の 外に積む稲は 乏しけど 唐辛子赤く 掛けつらね干す

冷えちぎり 洗ふ大根を その葉さへ 寒の素水に われは見つくす

冬はいま しろくさやけき 蓮の根の 紫ひかる 切口の孔

うち沈む 飯粒見れば 冬の田の 後ゆく水も 冷えとほりけり

常無きは いよよ清明けし さらさらに 冬の淡水も ながれ來にけり

冬の水 いさら小川の 日に透きて 影うごく見れば 流れつつあり

和歌と俳句