北原白秋

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野分だち 翔りつぎ來る 秋鳥の きそふ鋭聲は 朝明まされり

群れわたる 鳥かげみれば 秋空や ただにひとすぢの 道通るらし

つぎつぎと 來て立つ見れば 電線や この空ぞ渡る 秋鳥の道

よきかげよ 向ひの松の 木ぶりにも 秋分の日射 しづかにし見ゆ

畷ゆき もみつつ勢る 樽みこし 夕かげに見えて 稲は穂の波

樽みこし 山のすそ田の 夕かげに 出てはずむなり 霧な棚引き

草堤 夕かげ永し 誰ならず 我があゆむなり かく思ひあゆむ

秋のいろ ただにあはれと 道芝の 小砂利まじりに 夕焼くる蹈む

なぐはしき 山とふならね 雑木立 ただにしたしき 秋ふかき山

雑木山 朝に見あるき 夕べにも 見てめぐるなり 足の向くまま

朝出でて 歸り來る子と あひにけり 歩みつつ聴く その秋山を

相模の 阿分利の山の 秋山の なにの紅葉か もとも染めたる

日にひほふ 閑かなる戸や 門竝の 秋ふかうして 黄菊咲きつぐ

秋まひる 隣にふかむ の香の いつかこなたへ うち匂ひつつ

吾が門に さし入る月の かげ見れば 昨夜のあらしは 激しかりにし

觀るものに 月の光は 流るれど 山櫨の葉に さらにすずしき

秋はいま さなかとぞ思ふ 向つ丘 月明うして この夜十六夜

狭霧立ち 冷ゆる夜頃や 先駆けて 月に向く子が 髪毛かがよふ

月夜風 しろくかがよふ 穂すすきの 旗手は長し なびかひにけり

架線橋 つづきて霧らふ 空ながら 線路は涼し 月明う照り

和歌と俳句