北原白秋

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霾らす 春の嵐は とよもさず 雉子鳴き立つ 聲ぞとよもす

霾らす 風あし見れば 吹き亂り ひと日濁れり 光なき空

吾が門よ 夜ふけにきけば 春早やも かはづのこゑの 立ちてゐにける

初蛙 鳴くやいづらと 窓あけて 耳とめてをり 月ののぼるに

春じめり 馬頭觀音の 小夜ふけて 立ちそめにけり 田蛙のこゑ

くくと啼き ころころと繼ぐ 蛙のこゑ 繊き月夜の ものとし聴きゐる

菜の花に 眼のみうかがふ 鐵兜 童なりけり 敵はあらぬに

廟行鎭は きさらぎさむき 薄月夜 おどろしく三人 爆ぜにたるはや

汲みかはす 水盡きにけり いざとこそ 立ちたりけむ 思ひきはめぬ

鐵條網に いたりすなはち 爆ぜ死なむ命なり ひたひたとそろふ足音

ますらをや 命ある間と 口火燧り 爆藥の筒は いたはりぬらむ

灼きつくす 口火みじかし ひた駈けに 爆ぜて碎けて 果てぬべき兵

ますらをは かねて期したれ 行きいたり 火と爆ぜにけり 還る思はず

筑紫の 我が不知火の おぎろなき 氣性このごとし 爆破し止んぬ

突撃路 あへてひらくと 爆藥筒 いだき爆ぜにき 粉雪ちる間に

薄月夜 とどろ火の發つ たちまちを おのれ爆ぜ飛び 兵微塵なり

兵士は しかく死すべし しかれども 煙はれつつ その影も無し

和歌と俳句