夏の鳥 朝のラヂオに 啼き乱り その山と思ふ 滝津瀬鳴りぬ
夕待たず 我が眼くらきに 聴きほくる 早慶戦も ラヂオに止みぬ
犬の声 ラヂオの中に 群れ起り 外に吠え継きて 月の夜ふけぬ
睡蓮の 花泛りけりとふ 池の面は 日の照りつけて 観る色も無し
な悲しみ 霧りてをぐらき 我が眼にも もろもろの頭は 光りて見ゆる
眼のうらに 光る汲水場を 蛇の 奔る影さへ すばやかりしか
石仏は 正面向きおはし 須臾に見る 空現しけく 涯なかりにし
ひと度は 相見まつりき 縁なり 日光菩薩 加護あらせたまへ
物のはし 黄金にあかる 夕すらも ただにし塵の 舞ふと思へや
夏菊の しろき籬の 角にして 日のいちじるき 光に遇ひぬ
梅雨の庭 おぼおぼしきに 鉄線蓮の 花見えてゐて また降りこめぬ
ふりこむる 梅雨は霖雨の 日ぐらしを 硯に向ひ 書くこともなし
ふる雨に ベンチ濡れゐる それのみの 影ありながら 眼には頼みき
谷地の水 上と下とに 瀬鳴りて 気ごもり重し ここの梅雨時
日癖雨 梅雨はけ長し ふきぶりと ふりこむるきはぞ むしろすがしき
木深くも 繁に異なる 物の雨 瞼へだてて ひびくを聴けば
梅雨ぐもり 気重き松や 靄ごめと 隣は邃き 色のこめつつ
靄ごめや 三階松の 塗笠の 笠揺り畳ね 今は梅雨時
森にひびき 鳴ける蛙を 梅雨早やも 茅蜩の声の きざむかと聴く
雨がへる 日中啼き継ぎ 声速し 矢筈檀の 根にひびかひぬ