超臨界二酸化炭素による成膜(SCFD)は、CVD (Chemical Vapor Deposition :大気圧以下の減圧プロセス) と比較し、以下の特徴があります。

・優れた拡散性と浸透性により、超微細構造体の内部にまで、反応物質が浸透
   ⇒ 高アスペクト比を持つ構造に均一に成膜が可能
・高い溶媒能により、
  a) 高原料濃度下での成膜が可能
  b) CVD等の気相反応系では蒸気圧が低いため使用できなかった種々の原料使用が可能
   (Cu有機化合物は600種類以上あり、反応副生成物が無い新規材料の採用可能性が高い)
   (Cu-CVDで問題となるフッ素非含有原料が使用可能)
・導電性基板表面で吸着飽和を起こし、成膜速度の原料濃度依存性が少ない0次反応領域使用の期待
   (気相に比べ拡散係数が小さいが濃度依存性がないため溝底部での埋込み性が良好)
・金属薄膜形成では、還元剤H₂が基板表面に解離吸着して反応が進行、流体中の反応は無視でき、
   気相中での粉体生成が無い
・成膜速度の促進により、プロセス低温化への期待
   (70℃でCu膜合成:Pd錯体同時供給で実現@Idho大)

 Pd錯体を2~5%含有したCu原料で成膜する事でPdが触媒として働き、70℃でのCu成膜を実現。Cu膜中へのPd取り込み量は約0.2%。 by Chem.Master.,16,p.4028 (2004)
・自由な合金組成の成膜実現の可能性が高い (Ex:エレクトロマイグレーションによる断線不良防止用Ag合金薄膜)
    (電解メッキは、析出物の酸化還元電位の制約より自由な合金組成の制御が困難)


●新規成膜ケミストリーの構築の期待
●成膜速度、埋込み速度などの特性の向上  
成膜イメージ図

(社)表面技術協会第119回講演大会要旨集18A-27「超臨界CO₂を用いた3次元MEMS構造への金属・酸化膜・有機膜の高均一コーティング」の図2に上記のイメージ図と 同様のSiO₂等で形成されたオーバーハング形状の表面に均一に形成された銅膜の写真が掲載されている。


 研究例 :   参考資料:「超臨界二酸化炭素を用いた薄膜形成」、機能材料、vol.27(1), p.58 (2007) 他より引用
・半導体デバイス用 Cu薄膜形成  (東大、山梨大他)
  ・Cu(acac)₂+H₂→Cu+2Hacac、190~210℃、Cu(acac)₂:0.6E-3 ~ 2.5E-3mol/l、水素:0.16~0.39mol/l。
   還元剤として、水素以外に、エタノール、IPAも可能だが、下地により、還元性が異なる。例えば、SiO₂等の絶縁膜上には成膜しない。
  ・Massachusetts大:Cu(tmhd)₂+EtOH→Cu+2(β)-diketone+CH₃COH、270℃-21.4MPa、Cu(tmhd)₂:0.38wt%、EtOH:0.05、EtOH/Cu(tmhd)₂=126mol/mol、265nm-Cu膜。
  ・Idaho大:Cu原料に対し、2~5%のPd(hfa)₂を触媒として供給し、70℃での低温Cu成膜。Cu膜中のPd取込み量は、0.2%程度、Cu薄膜比抵抗2.1μΩ-cmと十分に低い。
  ・山梨大:Cu(hfac)₂+H₂→Cu+2Hhfac、180~230~400℃-10~15MPa、Cu(hfac)₂:0.35mol%、H₂/Cu(hfac)₂=10mol/mol
・高誘電率ゲート絶縁膜 (ハフニウム)
・多孔質材料への金属埋込み
  (Ex:カーボンナノチューブCNT中へPd/Ni/Cu埋込み)
・MEMS作製プロセスでの成膜・表面修飾 (東大BEANS発表資料より)
 ①多様な材料への成膜 (各種金属、酸化膜、機能性有機膜 等)
 ②3次元構造の開口がnmからμmに至る大きな分布を持つスケーラブル成膜
 ③下地材料に依存した選択成膜、非選択成膜性

使用される錯体の例:
  ACAC: アセチルアセトン 消防法:危険物第4類 第2石油類 (非水溶性,) 危険等級3、指定数量1,000L
     CH₃-C(=O)-CH₂-C(=O)-CH₃ MW=100.12 b.p.=139℃ f.p.=34℃ 爆発限界=1.7%~ CasNo:123-54-6
  TFA : トリフルオロ・アセチルアセトン
     CH₃-C(=O)-CH₂-C(=O)-CF₃ MW=154.09 b.p.=107℃ f.p.=40℃ 爆発限界= ? CasNo:367-57-7
  HFA : ヘキサフルオロ・アセチルアセトン
     CF₃-C(=O)-CH₂-C(=O)-CF₃ MW=208.06 b.p.= 71℃
  THD : テトラメチルペンタジオン
     (CH₃)₃C-C(=O)-CH₂-C(=O)-C(CH₃)₃ MW=184.27 b.p.=72℃@6Torr f.p.=67℃ 爆発限界= ? CasNo:1118-71-4
  Cyanex302:Bis(2,2,4-trimetylpenthyl)monothiophosphinic acid
     ((CH₃)₃C-CH₂-CH(CH₃)-CH₂)₂-P(OH)=S

CFD例

(1) 金属薄膜形成 : 化学流体析出法 (Chemical Fluid Deposition:CFD)

 金属有機錯体(銅ヘキサフルオロアセチルアセトン:Cu(hfac)₂)を15MPaの超臨界CO₂中に溶解させ、ウエハ表面温度が200℃に加熱された成膜装置(参考:右図)に供給すると共に水素を還元ガスとして供給することにより、シリコンウエハ表面で銅の成膜 (Cu(hfac)₂+H₂→Cu+2Hhfac)が行われます。この結果、優れた段差被覆性と埋め込み性が確認されています。これは、超臨界CO₂が高い拡散流束をもち、高密度性がCVDと異なる吸着モードを発現させ、その結果、高速堆積や微細選択堆積が実現されたから と考えられています。


NSP試験装置フロー図

(2) 電解めっき:超臨界ナノプレイティング(SNP)

 超臨界CO₂は電解質溶液と混合しないが界面活性剤を添加し乳濁化させ、エマルジョン状態で電気化学反応を行うことにより電気めっき反応を極めて制御性が高く効率的に行うことができる。この新規めっき反応を曽根らは超臨界ナノプレイティング(SNP) と 命名し、実用化開発を進めました。めっき液(硫酸ニッケル、塩化ニッケル、ホウ酸系)に対して、1wt%界面活性剤(ポリエチレンオキシドアルキルエーテル)を加え、陽極にニッケル板、陰極に真鍮板を左図のように高圧容器内に設置し、323K、10MPaで撹拌し、2Vで電圧が 印加されました。この結果、ピンホールがなく、結晶粒の微細化、平滑化(基板面粗度32nm時に20nmにレベリング)、高硬度(常圧めっき550Hvに対し700Hv)化されたニッケル被膜が得られています。

NSP反応モデル図

 金属の析出反応と同時に発生する基板上の水素気泡が孔状のピンホール欠陥などの原因の一つですが、発生水素気泡が超臨界CO₂に相溶し速やかに消失すると共に反応点に存在する不純物に対する高密度・高浸透性の超臨界CO₂による洗浄効果により、ピン ホールやクラックの発生が抑えられるためと考えられています。SNP反応場では、電解質溶液中に二酸化炭素相が分散して流動しており、陽極とめっき液が接触している界面(左図)では、結晶核が発生しているが、二酸化炭素相が接触している場所では核発生しない。一方、 陰極表面に接触している二酸化炭素相は速やかに離脱し、同時に他の場所に二酸化炭素相が接触します。めっき反応で核発生し結晶成長している場所に、この二酸化炭素相が接触すると一時的に結晶成長は停止し、この結果、結晶が微細化すると考えられています。水素気 泡の消失によるピンホール抑制やボイド抑制も二酸化炭素相が分散した特異な電気化学反応場に起因していると考えらます。

NSP実施例

 このSNP法を半導体銅配線に応用したところ、微細凹部の埋め込み不良やシード層溶出によるめっき不良などが起こりました。そこで、銅イオン濃度を過飽和にするために、SNP反応場に銅微粒子を導入すると、右図に示すように直径300mm半導体用埋め込みテストチップで、 細孔直径60nm、深さ300nmの細孔を欠陥無しで銅が埋め込まれたことが確認されました。銅微粒子を添加しない従来法では金属結晶の微細化が観測されましたが、本発展法(M-SNP法)では、埋込穴内部で銅はボトムアップ成長(底面からの一次元成長)して(111)面に配向した単一 結晶粒として埋め込まれたと考えられています。  (本項の図は、曽根正人氏のご厚意で御提供されたものを加工しています @ 2014年)