超臨界二酸化炭素抽出･除去：超臨界流体NET

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超臨界CO₂の処理で、有効成分が対象の場合は抽出、非有効成分が対象の場合は除去/洗浄/乾燥などと呼ぶことがありますが、基本、同一の単位操作です。このページでは、主に食品等からの有効成分の抽出操作について説明します。除去/洗浄等は上段より他ページを、乾燥はこちらのページを参照下さい。

【背景】食品業界では脱有機溶媒として無害な二酸化炭素(CO₂)をグリーン溶媒として用いる超臨界抽出技術に対する期待が従来以上に高まっています。超臨界CO₂抽出技術は約30年前よりホップエキスやフレーバーなどの抽出やコーヒー豆からのカフェイン抽出などを対象に工業利用されています。最近の適用対象は保健機能食品などを製品とする天然物(動物由来、キノコ類、植物由来)からの機能性成分となってきています。
　近年のセルフメディケーションの高まり、高齢化社会への移行など消費者の健康訴求型食品に対する嗜好やニーズの多様化に伴い関連市場が拡大し、特定保健用食品だけで2005年で6,300億円の市場が拡大形成され、食品機能を求める社会ニーズが増加しています。
　さらに、食の安全性確保に対する社会ニーズも従来以上に高まり、「残留農薬ポジティブリスト制」施行も含め、これらニーズを満たす抽出法として熱に弱い物質の取扱いが容易で、食品に安全な超臨界CO₂抽出法が見直されています。

【特徴】天然物からの機能性成分の分離採集の方法は、対象となる原料、目的とする成分、分離採集物の用途等に応じて選択されますが、超臨界CO₂抽出法と比較した際の従来法の問題点は以下と言われています。

(1)圧搾法　　　：	回収率が低く、圧搾時の摩擦熱による品質劣化他
(2)水蒸気蒸留法：	水蒸気温度で変質する成分や水に可溶な成分の分離には、不適
(3)溶剤抽出法　：	溶剤の残留、溶剤除去時の揮発性成分の散逸/熱変化

例えば、唐辛子の辛味成分であるカプサイシンの超臨界CO₂抽出物は、従来の溶媒抽出と比較すると以下の特徴があります。
　　a)　溶媒の残留がなく安全
　　b)　常温抽出なので天然のまま抽出される
　　c)　唐辛子特有の香りが豊富
　　d)　粘性が低く、流動性が高い
　　e)　不純物が少なく、クリアー

　これらの特徴から、高揮発性の精油成分から脂溶性の呈味成分までが散逸や変質することなくバランス良く分離回収でき、従来法では得難い良質な天然有効成分の抽出、濃縮製品の製造に道を開きました。従来の35MPa程度迄の圧力を対象とした食品香料用香味成分の超臨界CO₂抽出例として、以下のものがあります。

図. 超臨界CO₂に対するトリグリセリドの溶解度と抽出挙動試算例

　1) コーヒー http://www.fjf.co.jp/jp/flavor/01.html
　　2) バニラ
　　3) 乳製品
　　4) 茶類　(水溶性香味成分)
　　5) スパイス類　

【高圧超臨界CO₂抽出の特徴】
　従来の超臨界CO₂抽出の多くは、35MPaまでの圧力を利用して抽出が行われますが、最近、より高圧・高温領域を利用する事で抽出効率がアップできる、微量成分の抽出が可能になる事例が公表され、実際に高圧抽出された製品が販売されるようになりました。

　上図に超臨界CO₂へのトリグリセリドの溶解度(拡大図はこちらを参照下さい)と、粉砕乾燥大豆粉からのトリグリセリドの抽出率を各種圧力･温度条件下で溶解度を用いて試算した結果を示します。トリグリセリドの溶解度は、圧力と温度の上昇により飛躍的に増加し、特に60℃以上の揮発性が高まる領域で、且つCO₂密度が高い高圧では溶解度が飛躍的に大きくなり、この結果、抽出速度が速くなり、従来以上の高い生産効率、高収率が期待できます。このため、従来技術における低圧抽出条件（30MPa，50℃）での抽出率と同じ結果を高圧抽出条件（80MPa，70℃）で得るために必要な超臨界CO₂の供給量は大幅に低減が可能です。これらから、抽出時間の大幅な短縮、CO₂供給量の低減による抽出装置の小型化などが可能になり、装置利用効率の向上、ユーティリティ費などの大幅な低減に繋がります。この結果、従来の低圧抽出（30MPa）よりも、単位原料当りの抽出に必要な費用、即ち設備費と電気代などの用役費がともに削減されます。特に用役費の削減効果が、全体の抽出費用削減に大きく寄与します。従来法では適用が難しい低抽出効率成分への本技術の適用拡大が期待されます。
ひまわり種子の抽出挙動　カロチノイドは動植物に広く分布する脂溶性色素で、黄橙色から赤橙色を呈し、酸化作用に対抗する抗酸化作用があります。ルテイン(黄橙色)、βカロチン(黄橙色)、カプサンチン(赤色)、クルクミン(黄色)などは分子量が大きいため低圧では溶解度は極めて小さですが、同様に55℃、50MPa以上の圧力で溶解度が飛躍的に大きくなります。このため、高圧で超臨界CO₂抽出することにより、従来の水抽出、アルコール抽出、或いは、低圧超臨界CO₂抽出とは異なる機能性成分の高効率抽出が実現できる可能性が高くなります。

【高圧超臨界CO₂抽出の事例】
　ひまわり種子からの油脂、微細藻類である海産クロレラ(83%水分含有)からの脂質の抽出挙動例を示します。いずれも50MPaから70MPaと高圧になるほど、単位CO₂当たりの抽出率が大幅に高くなっています。このため、目標抽出率に対する必要な超臨界CO₂供給量が大幅に減り、①抽出時間の大幅な短縮、②CO2供給流量の低減による抽出装置の小型化が可能になります。装置利用効率の向上、ユーティリティ費などの低減に繋がるため、従来の35MPa抽出よりも安価な抽出費の実現、従来法では適用が難しい低抽出効率成分への適用拡大が期待されます。

高圧抽出が期待される機能成分等の事例

・ソーパルメット (Saw Palmetto ノコギリ椰子)
・カロチノイド(βカロチン、アスタキサンチン、リコピン、
　　　　　　フェオフィチン、クルクミン、ルテイン　他)
・不飽和脂肪酸 (種子油、微細藻類他)、スクアラン
・ハーブ類 (ｺﾘｱﾝﾀﾞｰ、ｶﾓﾐｰﾙ、Labex他)、ピペリン
・ココアからの脱キサンチン/ﾃｵﾌﾟﾛﾐﾝ抽出、ナッツ実

　高圧超臨界CO₂抽出の有効性を示す他の例として、海洋生物に存在する高抗酸化物資であるアスタキサンチン、マリーゴールド粉からのルテイン、セリ科のハーブのコリアンダー、サメの肝油からのスクアラン、胡椒中のピペリン、ココアからの脱キサンチン、ホップからのポリフェノール、はしばみの実などが報告されおり、ノコギリ椰子からのソーパルメットは米国で既に70MPa、助剤添加なしの高圧CO₂のみで、２時間抽出で生産されています。
　従来の低圧超臨界CO₂抽出の特徴に加え、高圧で溶解性が向上する場合には、安全性が高く、以下の特徴のある機能性・高付加価値成分の経済的な製造に道を開く可能性が高くなります。
　　(1) 生産性向上、処理費用の低減化
爆砕処理、細胞壁破壊法　　(2) 微少･高付加価値機能性成分への適用
　　(3) 助剤 (Co-solvent) の低減、不要化

　また、抽出対象物に細胞壁がある場合は、それが抵抗となり抽出速度が遅くなります。このような場合は、細胞壁を破壊すると抽出速度が増加します。細胞壁の簡単な破壊法は、右図に示す爆砕処理法で、抽出処理前に高圧から減圧する時にCO₂の膨張エネルギーで細胞壁を破壊します。右図のウコン、コリアンダー、黒コショウ抽出の場合は、80MPaから大気圧近くまで急激減圧し、再昇圧して抽出した結果、抽出率が高くなりました。

【固体・バッチ処理】
　原料が固体、或いは液体だが処理量が少量な場合には原料充填をバッチ式にしたプロセスを採用します。原料充填・払出は、蓋開閉が自動化された高圧バッチ抽出器を使用して短時間で行われ、超臨界CO₂は半連続的に供給されます。3基の抽出器を用いたシリーズ運転(複数抽出器を直列に繋ぎ、半連続供給であったCO₂流体を完全連続で供給)の場合、加熱/冷却、分離等のCO₂流体の循環工程、分離工程のスリム化に繋がり、設備費及び用役費の大幅な低減が図れます。詳細は、工業化(スケールアップ)/シリーズ運転(半連続装置)の検討を参照下さい。