超臨界アルコール精製プラント

工業用に使われるアルコール(エタノール/エチルアルコール)は、工業用アルコールと呼ばれ、お酒として飲む目的以外で製造されたものを指すそうです。食品の防腐剤、香料や化粧品などの材料として使用されます。工業用アルコールには、 発酵アルコールと合成アルコールの2種類があり、発酵アルコールは、サトウキビやトウモロコシなどの農作物から酵母によりアルコール発酵で造られます。このため、フーゼル油(エタノールよりも沸点の高い揮発性成分の総称)などの親油性微 量不純物を分離・精製する必要があります。通常、多段蒸留法で分離・精製されていますが、これに対して、粗留アルコールから、 超臨界CO₂による”連続”精製・濃縮(抽出)プロセスを開発・実証しました(右写真参照)。超臨界CO₂抽 出を採用する事により、対象成分の相平衡状態を変化させることが可能になり、効率的な連続抽出プロセスが実現できます。検討した対象プロセスは、発酵エタノールからの工業用アルコールとしての含水エタノール(95vol%)と水との共沸濃度 以上の無水エタノール(99.5vol%)の精製プロセスです。

超臨界アルコール精製プラント

1. 含水エタノール

超臨界CO₂抽出の特長は、フーゼル油との親和性が良いため効率良く不純物を連続的に分離できると共に、エタノールと水の分離効率が良いことが上げれます。このため、既存の蒸留法に代わる省エネルギープロセスとして開発が行われ、 上右写真に示すパイロットプラントで実証しました。プラントの概略フローと超臨界CO₂よる向流接触型抽出塔の模式図を図1に示します。原料粗留アルコールには主成分であるエタノールのほか、水および各種不純物が含まれます。原料 粗留アルコールはまず、向流接触型不純物除去塔に供給され、不純物を超臨界CO₂により抽出し、塔頂より抜き出します。不純物を抽出したCO₂は減圧し、向流接触型溶剤回収塔にて不純物とCO₂とに分離します。塔頂で99.99% 以上の純度に精製されたCO₂は凝縮したのち再度昇圧し、不純物抽出塔に供給・循環されます。不純物除去塔の底部から抜き出された抽残液中には、凡そエタノール27wt%、水62wt%、CO₂11wt%の組成で、フーゼル油等の不純物は、粗留 アルコール中に対エタノール比で1,900wt-ppm含まれているのが、1,500ppmになりますが、主不純物は図3に示す分離度が悪いプロパノールとメタノールが9割強で下流の濃縮塔でプロパノール含有液をサイドカットして不純物除去塔に還流し、メ タノールは、通常蒸留で除去して製品含水エタノールとなります。

三成分系平衡データ

図2に超臨界CO₂-水-エタノール系の三成分平衡を示します。左側は三成分系三角図で、非極性流体である超臨界CO₂中には、極性流体である水は、通常ほとんど溶解しません(0.3~0.5wt-水%@5~40MPa, 75℃)が、三成分系では超臨 界CO₂中にかなりの水を溶解させることが可能になります。右図の実線は超臨界相エタノール濃度と液相エタノール濃度の関係をCO₂フリーで示し、点線は大気圧でのエタノールと水系のx-y線図を示します。これより、大気圧系と比 較し、超臨界CO₂中でのエタノールと水の分離効率が格段に良いことが分かります。
不純物の分離度 図3にCO₂中での不純物の分離度(不純物i成分の重液組成と軽液組成の比(分配係数)に対するエタノールの分配係数との比)を示します。40℃、10MPa に比べ、亜臨界状態の20℃、6.5MPaの方が分離度が大きくなる傾向があり、エタノールとの分離がしやすいことを示しおり、発酵エタノール中の微量不純物の分離が可能となりました。

2. 無水エタノール

従来の蒸留法で無水アルコールを製造する場合は、水とエタノールの共沸(89.4mol%)のため、第3成分の添加が必須であり、製品中の添加剤除去も含めた全体プロセスが複雑となります。超臨界CO₂を使用した場合は、図2右図に示すよ うに温度と圧力を変化させることにより、二相共存領域を拡大させ、プレイトポイント(液相Ⅰと液相Ⅱの組成が等しくなる点)を消失させることが可能になり、且つ、容易にCO₂を除去できます。40℃、10MPaでは、プレイトポイントが存在 しますが、60℃、10MPaではプレイトポイントが消失し、エタノールを高濃度に濃縮(無水化)できることを実験により検証できました。