図1. 水・二酸化炭素の状態図
図2. 超臨界二酸化炭素の擬臨界温度図
超臨界流体は、圧力と温度を上げる事により、臨界点近傍に近づけると、液体と気体の両特性が大きく変化します。臨界点以上では、液体・気体の相が無くなりますが、液相の臨界点以下の亜臨界状態でも、特異性を示し、
例えば、亜臨界水の場合は、特に、200℃以上で、誘電率とイオン積が大きく変化し、ケミカルサイクルのような工業面で利用されています。
図1は、水と二酸化炭素の状態図(温度vs圧力線図)を示しますが、緑色部分が亜臨界も含め工業的に利用されている領域です。
図2は、超臨界圧8.0MPaにおけるCO₂温度に対する各種物性値を示し、比較的狭い温度領域で急激にかつ連続的に液体的な状態からガス的な状態へ変化する様子を示しています。これは、臨界圧力(7.38MPa)より低い圧力域にみられる飽和域の名残と考えられます。
擬臨界温度(定圧比熱が極大値をとる温度)の近辺で物性値が大きく変化し、例えば、自然冷媒としてのCO₂カーエアコンの熱伝導率は擬臨界温度でピークを示すため、これを配慮した熱交換器設計が必要になります。
超臨界流体、特に臨界点近傍での特異な物性として、以下が挙げれます。
- 熱物性値(熱容量、熱伝導度、粘度)にピークが生じる
- 音速が極小となる
- 臨界点で表面張力や蒸発潜熱が 0 となる
- 高密度、低粘性、高拡散性を有する
- 相互拡散係数が減少する
- 大きな溶解度差が得られる
- 反応速度に極大が生じる
ここでは、超臨界二酸化炭素と超臨界水の特異性と特性を紹介します。上手く活用して、新しい技術領域を開拓して頂ければと思います。
1. 超臨界二酸化炭素の特異性と特性
超臨界CO₂は、温度、圧力、共溶媒により、物性値、輸送物性を大きく変化させることができ、特異的な挙動を示します。その特徴を十分に活用したプロセス設計により、特異性が適用が可能になり、「想定外」でない装置、工業的な利用が実現します。
図3. 二酸化炭素の比熱、溶解度パラメータとエタノール溶解度
「想定外」でない装置とは、例えば30MPa、80℃の設計装置は低圧の10MPa、80℃の同流量では熱量不足で運転できないなど、通常溶媒系で想定されない特異条件も考慮した装置のことです。その特異性の一例を図3に示します。図3の左図の比熱は、
臨界圧から10MPa前後の間で大きく変化し、プロセスや装置を律速する場合があります。
図4. 表面張力の比較
天然物油脂や図3のエタノール等の物資は超臨界CO₂に相溶(2種類又は多種類の物質が相互に親和性を有し、溶液又は混和物を形成)になる条件があり、この条件を有効に活用することが重要です。メタノール他の相図を
CO₂相平衡に示します。
二酸化炭素は図4に示すように、他の溶媒と比較し、表面張力が非常に小さく、超臨界状態での乾燥時に界面張力を働かせずに処理が可能になります。表面張力、応用・適用分野の
超臨界乾燥を参照下さい。
密度などの物性が変化するだけでなく、誘電率(極性の高低指標)や図3中図に示す溶解度パラメーター(SP値:物質間の親和性の尺度、詳細はこちらを参照下さい)も変化します。この性
質とエタノールなどとの相溶性を活用し、助剤(エントレーナ、コソルベント、モディファイア)といっしょに使用する例が多いです。無極性流体の超臨界CO₂は、ヘキサンやベンゼンとSP値が同じ領域(図3中図参照)にあり、助剤も含めた溶媒
極性などの制御により、如何にCO₂流体を使いこなすかがプロセス成立の重要なキーポイントのひとつとなります。
超臨界CO₂は温度、圧力、共溶媒により、物性値、輸送物性を大きく変化させえる ❗
■ 密度を、簡単に大きく変化させれる !
■ 比熱は、臨界圧から10MPa前後の間で大きく変化し、プロセスや装置を律速する !
図5.超臨界流体の溶媒特性
■ ⇒ エンタルピーが、臨界点近傍で、大きく変動 !
■ 誘電率・溶解度パラメータ(SP値:物質間の親和性の尺度) が、変化 !
■ 圧力・温度変化で溶媒 (超臨界CO₂) が、相溶になる条件がある !
■ 表面張力小さく、乾燥等の時に界面張力を働かせずに処理が可能 !
超臨界CO₂は45年前から食品分野で抽出溶媒として利用され、国内で工業的に利用され始めたのは遅くとも1984年で、私が所属していたグループも、1985年から研究を開始し、既に35年以上の歴史、蓄積があります。
一方、超臨界流体国際学会(ISSF2012、2012年5月米国開催、CO₂以外も含む)で約185件、内日本から16件の口頭発表がされ、食品分野を含め幅広い分野で現在も活発に研究開発が行われています。超臨界流体の歴史は
こちらを参照下さい。
図5に超臨界流体の溶媒特性の観点も含めた特長とデメリットを示します。この特長を利用した、応用・適用分野の外観(超臨界CO₂)で全体感(基礎研究レベルは除く)を示し、個々の分野を各々ペー
ジに示します。特に、高分子材料の加工、機能化処理の研究開発が多数報告されています。
2. 超臨界水の特異性と特性
超臨界水・超臨界H₂Oは、22.1MPa以上の圧力、374℃以上の温度で超臨界状態になります。水分子は、常温付近では、70%の水分子が4つの水分子と水素結合し、氷と同じ結晶構造である4配位座の四面体を形成し、残り30%は、水素結合数が3以下で結晶構造をなし得ないので、全体として流体化しています。
温度が上昇すると、分子の運動が活発になり、4配位座の四面体構造は直線的に減少し、水の特異性が少なくなります。高圧水の状態で温度を上げていくと、図6に示すように誘電率とイオン積が大きく減少し、200℃以上の温度領域の亜臨界水の状態でも、
イオン積が大きく増加し、加水分解反応が起こりやすくなり、誘電率もエタノールなどと同程度以下になる超ユニークな特徴を示します。図5に超臨界水の特性を示します。
〇 解離定数 (イオン積)大きな図はこちら!
水の解離定数Kwは、20℃で10⁻¹⁴(mol/kg)²で、pHなど水溶液系の化学特性のベースになっていますが、高圧水は、温度の上昇と共に、イオン積が大幅に増加します(図6右図の縦軸は、-logKwで、イオン積増大で数値が小さくなります)。
このため、電解質溶媒としてイオン反応(加水分解反応)に好都合な反応場を提供すると共に制御できる溶媒として利用されています。解離が進み、水自体が酸やアルカリの機能を示し、加水分解作用が大きくなります。
このイオン積は、250℃近辺で最大値 (図は-logのため最小値)を示し、高圧になると共にその最大値を示す温度は300℃に近づきます(図6下図の赤〇線は極大値軌跡を示します)。
更に温度を上げるとイオン積は急激に小さくなり、ガス的性質が強くなります。このため、縮重合物の加水分解反応を行う場合には、250℃近辺で、圧力は10MPa程度で行うのが、効率的になります。
即ち、この観点では、超臨界水よりも亜臨界水の方が反応特性が良い結果になります。
(常温の水は -log(Kw)=14、250℃の高圧水は -log(Kw)=11となり、[H⁺]・[OH⁻]が1,000倍増加!)
イオン積の最大値よりも、更に温度上昇させると、密度低下によりイオン積が減少しますが、逆にこの領域ではラジカル反応が支配的になります。この時、超臨界水のような高密度の不活性物質が存在する事で、
ラジカル反応でも反応経路や生成物分布の制御が期待されます。
図7.超臨界水の比誘電率とイオン積
〇 誘電率大きな図はこちら!
溶媒の極性を評価するパラメータとして使用され、高圧水は温度の上昇と共に、図6左、図7に示しように誘電率が大幅に低下します(臨界点推定値:5.3)。このため、20℃時に誘電率80の極性溶媒である水が温度上昇と共に、200℃近辺でメタノールやエタノール、300
℃ではアセトンと同等の誘電率になります。更に温度を上げるとヘキサン等の一桁の誘電率を示し、臨界点付近では、無極性の有機溶媒であるクロロホルムやエチルエーテルと同程度まで下がり、
無極性溶媒として作用します。
臨界点近傍では、弱極性溶媒なみの誘電率で従来の有機溶媒に匹敵する溶解力が期待され、
実際に水と油が均一相になることが確認されています。経験則として、高極性物質は高極性溶媒に溶けやすく、低極性物質は低極性溶媒に溶けやすい、これは、似た物に溶けやすいと言い表わされる例ですが、温度と圧力により、
極性を変化させることができるのが、亜臨界水・超臨界水です。ベンゼン、トルエンなどが、臨界圧力・臨界温度以下で水と相溶・均一相を形成することが報告されています。
〇 最大イオン積と非誘電率
図7に飽和(3.8MPaA, 247℃)と各圧力でのイオン積が最大となる温度に相当する比誘電率とイオン積の軌跡を赤〇線で示しています。これより、縮重合物の加水分解反応を行う場合には、上述しましたように、
250~300℃で、比誘電率は28~24に相当する領域で行うことが大前提となります。実用化済みのTDIのケミカルリサイクルでは、250℃(飽和圧力:3.9MPaG)、10MPa(飽和温度:312℃)、イオン積:11.1、誘電率:27.3、密度:806kg/㎥で行いました。