超臨界CO₂が有機高分子材料に溶解すると、膨潤・可塑化(高分子鎖の絡み合いを緩和し運動性の促進、自由体積の増加)が起こります。 例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)をCO₂で4MPaに加圧すると、大気圧下で105℃であったガラス転移温度(Tg)が50℃まで降下します。また、ポリスチレン(PS)を20MPaに加圧すると、ゼロせん断粘度が約1/20に低下します。
図1. 有機高分子への適用
CO₂の高分子材料への溶解によって、以下の物性変化が引き起こされます。
(1)ガラス転移温度、融点の低下
(2)粘度の低下
(3)表面張力の低下
(4)拡散係数の増加
(5)結晶化領域の増加
これらの物性変化の程度は、圧力あるいは温度などの操作によって簡単に制御できます。そのため、超臨界CO₂は高分子材料に対して制御性の高い溶媒となり得えます。 一方、高分子材料に溶解する現象と逆に一部の高分子やモノマー・オリゴマーなどが超臨界CO₂へ溶解する現象も現れます。これらの特徴を活かし、図1に示すように高分子材料の成型加工、機能化処理に応用すべく多数の研究・開発例が報告されています。
(1) ガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)の二酸化炭素圧力による影響
樹脂に二酸化炭素を含浸させると、分子運動が速くなる。低温では側鎖運動が活発になり、ガラス転移温度(Tg)以上では、主鎖の分子運動が活発になると言われています。
図2-1. 結晶性ポリマー 図2-2. 非晶性ポリマー
図2. 二酸化炭素圧力によるガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)の変化
(2) 高圧CO₂存在下でのせん断速度によるPS(ポリスチレン)樹脂のせん断粘度への影響
(3)高圧二酸化炭素存在下でのPC(ポリカーボネイト)樹脂の結晶化度への影響PC(ポリカーボネート)樹脂は結晶性の高分子ではあるが、成形によって得られた製品の結晶化度を上げることは非常に困難であり、一般に幅広く用いられている成形方法、すなわち射出成形、押出成形、圧縮成形およびブロー成形法で 成形された成形品は非晶性である。このポリカーボネート樹脂の結晶化を高めた場合は、耐溶剤性が向上し、また、機械的強度が増大することから、ポリカーボネート樹脂を結晶化させる方法がいくつか提案されている。その一つの例が 以下の超臨界二酸化炭素の使用である。 |
図3. せん断粘度の影響
出典:日本ゴム協会誌,77, p336 (2004)
(4)樹脂/ポリマーへの二酸化炭素の溶解度
樹脂/ポリマーへの二酸化炭素の溶解量は、温度が高くなると低下し、圧力に比例して増加する。融点(Tm)以上の温度ではヘンリー則に従い、二酸化炭素の密度に従い溶解量が増加します。融点以下の樹脂中のアモルファス部だけを 考慮すると、温度依存性に連続性があり、ヘンリー則で整理できます。
出 典 | PET 120℃:J. of Applied Polymer Science, 109 p2,836-2,841 (2008) PC 40,60,80℃:J. of Applied Polymer Science, 109 p1661-1666 (2008) PPO 100,150,200℃:Fluid Phase Equilibria 194-197 (2002) 847-858 PP 160,200℃:Fluid Phase Equilibria, 162, 269 (1999) PE 180,200℃:Fluid Phase Equilibria, 162, 269 (1999) |
(5)膨潤、可塑化
左図では、高圧二酸化炭素存在下でのPC(ポリカーボネイト)樹脂へのCO₂の溶解度 (上記(4)溶解度データと樹脂分子量・浸漬時間他で大きく異なる場合があります) は高圧程、Tg低下と共に大きくなり、
容積変化も大きくなります。
中図、右図では、同一圧力下では、温度が高くなると容積膨潤度が高くなることを示しています
出典:PC 35℃:J. of Polymer Science: Part B: Polymer Physics, Vol.25, 2497-2510 (1987)、PP(WM=98.5万:成形加工, p315 (2004)