伊勢
君が世はつるのこほりにあえてきねさだめなきよのうたがひもなく
伊勢
おくれずぞ心にのりてこがるべき浪にもとめよ舟みえずとも
返し よみ人しらず
舟なくば天の川までもとめてむ漕ぎつつしほのなかにき消えずば
よみ人しらず
かねてより涙ぞ袖をうち濡らす浮かべる舟に乗らむと思へば
返し 伊勢
おさへつつ我は袖にぞせきとむる舟こすしほになさじとおもへば
貫之
忘れじとことに結びてわかるればあひ見むまだは思ひみだるな
よみ人しらず
初瀬河わたるせさへや濁るらむ世にすみがたきわが身と思へば
よみ人しらず
名にしおはばあだにぞ思ふたはれしま浪の濡れ衣いくよきつらむ
業平朝臣
いとどしく過ぎゆく方のこひしきにうらやましくも帰る浪かな
よみ人しらず
みやこまでおとにふりくる白山はゆきつきがたき所なりけり
中原宗興
山里の草葉の露もしげからむ身のしろ衣ぬはずともきよ
貫之
みやこにて山の端に見し月なれど海よりいでて海にこそいれ
菅原右大臣道真
水ひきの白糸はへておるはたは旅の衣にたちやかさねむ
菅原右大臣道真
ひくらしの山路をくらみ小夜更けてこのすゑごとに紅葉てらせる
伊勢
草枕たびとなりなば山の辺に白雲ならぬ我ややどらむ
伊勢
水もせにうきぬる時はしがらみのうぢのとのとも見えぬもみぢ葉
小町
花さきてみならぬ物はわたつうみのかざしにさせる沖つ白浪
真静法師
足柄の関の山路をゆく人はしるもしらぬもうとからぬかな
僧正聖宝
人ごとにけふけふとのみこひらるるみやこちかくも成りにけるかな
貫之
てる月の流るる見れば天の川いづるみなとは海にぞありける
亭子院御製
草枕紅葉むしろにかへたらば心をくだく物ならましや
よみ人しらず
思ふ人ありてかへればいつしかの妻まつよひの声ぞ悲しき
よみ人しらず
草枕ゆふてはかりはなになれや露も涙もおきかへりつつ
素性法師
秋山にまどふ心を宮瀧のたきのしらあわにけちやはててむ