なつかしし雅く成し枇杷の味
あの花にあれがなるやら瓜作り
さびしさのどこまで広く秋のくれ
おもひ出しおもひ出しては秋の雨
綿とりや花みの後の内儀達
稲すずめちり行藪や月の雲
夜や昼や朝寝の床のきりぎりす
くはずとも露なめもせで稲の虫
川鳴りて月とDふる子もち鮎
手に付て妹がねたむかきくの綿
なく鹿やいくつ今宵のあらし山
雁鳴て目をあく菊のつぼみ哉
霧雨や下は雫の曼珠沙華
木兎の耳学問や事始
笹一葉塵と成けり雪の上
もの売の声のはづみやはつあられ
棹鹿のかさなり臥ぬ枯野かな
あはれなる味あたたまる火桶かな
宇津の山歩行なら雪に降ぬべし
門餝るまつにいさんで雪ぞ降
雪は降松うる声にちりかけん
灯の影の畳みせばや網代小屋
吹きおろすもみぢやまいるいのこ餅
寒菊やしづがもとなる冬座敷
冬梅のひとつ二つは鳥の声
冬椿花はのこらぬここちかな