釈迢空

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むさし野は ゆき行く道のはてもなし。かへれと言へど、遠く来にけり

夕づく日 雁のゆくへをゆびさして、いなれぬ国を また言ふか。君

わがかづく朽葉ごろもの袖 たわに、ゆたかに 春の雪ながれ来ぬ

いふことのすこし残ると 立ち戻り、寂しく笑みて、いにし人はも

こちよれば、こちにとをより なづさひ来、ほのに人香の。身をつつむ闇

車きぬ。すぐる日我により来にし。今あぢきなくわがかどをゆく

おもふことしばしばたがひ、おきどころなき身暫らく 君にひたさる

夕山路 こよひまろ寝むわがふしどの うさ思はする 鶯のこゑ

この里のをとめらねり来。みなづきの 夕かげ草の ほのぼのとして

おもひでの家は つぎつぎ亡びゆく 長谷の寺のみ さやはなげかむ

牧に追ふ馬のかずかず 何ならぬ 目うるみたりし後も忘れず

ほうとつく息のしたより、槌とりて うてば、火の散る 馬のあし金

秋たけぬ。すずろさむさを 戸によれば、枯れ野におつる 鶸のひとむれ


和歌と俳句