和歌と俳句

釈迢空

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山のひだ さやかに見えて、大空に、昏れゆく菟道の春をさびしむ

ともしびの見ゆるをちこち 山くれて、宇治の瀬の音は 高まりにけり

木ぶかく蜩なきて、長岡のたそがれゆけば、親ぞこひしき

春雨の古貂のころも ぬれとほり、あひにし人の、しぬにおもほゆ

杉むらを とををに雪のふりうづむ ふるさと来れど、おもひ出もなし

明日香風 きのふや千年。やぶ原も 青菅山もひるがへし吹く

なつかしき故家の里の 飛鳥には、千鳥なくらむ このゆふべかも

山原の麻生の夏麻を ひくなべに、けさの朝月 秋とさえたり

あるひまよ。心ふとしもなごみ来ぬ。頬をただよはす 涙のなかに

天つ日の照れる岡びに ひとりゐて、ものをひもへば、涙ぐましも

冬がれのうるし木立ちのひまひまに 積み藁つづく 国分寺のさと

遠ながき伏し越えみちや。うらうらに 照れる春日を、こしなづむかも

庭の面にかり乾す藁の 香もほのに、西日のひかり あたたかくさす

目をわたる白帆見る間に、ふと さびし。やをら 見かへり、目のあひにけり

をりをりは かなしく心かたよるを、なけばゆたけし。天ぞ来むかふ

見のさびし。そともの雪の朝かげの ほのあかるみに、人のかよへる

ねたる胸 いともやすけし。日ねもすにむかひし山は、わきのそそれど

わがさかり おとろへぬらし。月よみの夜ぞらを見れば、涙おち来も

わが恋をちかふにたてし 天つ日の、まのあたりにし おとろふる 見よ

いにしへびと あるは来逢はむ。神南備の萩ちる風に、山下ゆけば