和歌と俳句

釈迢空

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卒業する人々に

道なかに 人かへりみず たちつくす 道祖神と われと さびしと言はむ

桜の花ちりぢりにしも わかれ行く 遠きひとり と 君もなりなむ

をとめに誨ふ

ひたすらに 心さびしくなり来なむ 時 と わが思ふ。足らへるこころに

阪のうへに、白くかがやく 町の屋ね。ひたぶるに われ 人を憎まむ

ゆくりなく 電車どほりに 出たりけり。われは あゆまむ。おもて ひたあげて

ふろしきに持ちおもり来る 根葱のたば 肉の包みも、あしからなくの

今日の日も、ゆふげ あさげの味ひに、かかづらひつつ、うら安きかも

ふところに残り少なき小銭なり。あれを買ひ これを買ひ、喜びにけり

はしためをとりて 往にたる門弟子も、あやまりて来よ。のどけき 此ごろ

わが家の 飯炊ぎ女をつれ行ける かの 弟子の子も、さびしくて居らむ

人みなのうとみに馴れて 住むわれを。をとめはしたも、そむき行きけり

をとめ居て、起ち居 寝し居間を見たりけり。あはれに結へる 残り荷の紐

密びとの むつび けがれし屋ぬちぞ と 憎み言ひつつ さびしきものを

となりの音

うつり来しひそかごころは、もりがたし。隣りの家にあらがふ 聞けば

はらだちて めをと ののしる声聞けば、我がいきのをの思ひ くるしも

生きの身の ししむら痛く ひびき来る 人うつ人の たなそこの 音

さしなみの隣りの刀自の いき膚は、ひきはたかれて、響きけるかも

ひたすらに なげうつものの 音響き、隣りしづかに なりて居にけり

あまりにも 隣りしづかに なりにけり。畳のうへを わが 見つめをり

怒り倦み 泣きつかれつつ 寝たりけむ。隣りのめをと 明日は、さびしも

あらそひし心なごみに 眠るらし、隣りびとをや さびしみて居む

くりやに 水音高く落したり。隣ろびとらよ。さめろ と 思ひて