和歌と俳句

釈迢空

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国とほく 相みにけり。心荒びて 相したしまず。若き人の如

火の国の 阿蘇の煙も、見ずやあらむ。仰ぐ心なき汝が心知る

思ひ見る 黒き目金の顔さびし。こころ細りに 汝がいのち思ふ

わが前に 来居て、しづけくいふ言の、かなしむに似ぬ 汝が心はも

をとめらも をとめの姉も。この日頃 鄙ぶる汝に おどろかずあらむ

かたくなに 人な憎みそ。をとめ子は あしきも よきも、愛しきものを

よき妻の よきにつけても 叱る時、ひそけき日々の心は、をどらむ

夏のわかれ

青空の うらさびしさや。麻布でら 霞むいらかを ゆびさしにけり

かげろへる大き銀杏の 梢を見よ。わが言ふままに、目翳さす子か

飯倉の坂の のぼりに、汗かける 白き額見れば、汝は やりがたし

昼早く そばをうたせて 待ちごころ ひそかなれども、たのしみにけり

しづかなる昼餉を したり。いやはてに、そばのしるこを 啜ろひにけり

今日起きて 三夜を徹すわが為事。心悔いつつ たひらかにあり

喰ふそばの 腹にたらふが、あぢきなし。遠遣る心 さだまる如し

時を惜しんで

さびしさを 我に告げむ とする人よ。いこひて行かな。円山の塔

塔のやまを おり来るあゆみ 黙深し。やや夕づきて、風そよぎ居り

この憐き心にも、尚むくゆな と 言ひたまふか と 詞哭きにけり

ふみの上に、こと荒らけく叱りつつ 下むなしさの せむすべ知らず